cielo blu -another story-

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 どうして一緒に居たときにもっと大事にできなかったんだろう。最後は喧嘩ばかりだった。甘えていたのかもしれない。なにを言っても離れていかないような、そんな気でいたのかもしれない。  別れ話を切り出したのは彼女だった。けれど、あの時はそれしかないかなと思ったのだ。本当は笑って過ごしたいのに、いつの間にか彼女を蔑ろにしたようなことを言っては、傷付けた。彼女もまた、同じようにものを言うようになった。そんな関係は、もう終わりにした方がいいと思ったのは、たしかだった。けれど、残ったのは後悔ばかりの自分だった。 「はぁ」  思い起こすと溜息ばかり出てしまうのは致し方ないことだった。引越しをして、”ただいま”を言わない生活を始めてみても、心に降る雨は一向に止む気配はなかった。  今日はリフレッシュデーという会社の決まりで、残業をしないで帰る日だった。いつもよりも早く仕事が終わったので、ちょっとだけ歩こうかと一駅分多めに歩いていた。もう四十も越えると体型維持も大変になってくる。不摂生な生活をしている自覚がある分、最低限の努力はしているつもりだった。そんなときだった。視界にふと入ってきたのは”take shelter”という看板だった。喫茶店らしいそこは、営業時間も定休日の記載もなかった。なんとなく、今日はここに入ってみたくなった。彼女との初めてのデートも喫茶店だったな、と思い出しながら、すこし重厚そうなその黒い扉を開いたのだった。  カラン。  ドアベルが微かに響く店内には、ぱっと見、客の姿はなかった。 「いらっしゃいませ」  一人で回しているのか、店員は一人だけだった。静かな落ち着きを纏ったそのマスターらしき男性は、それでもどこか親しげな雰囲気を醸していた。 「あの、初めてなんですけど」  そう言うと、ふと男性が笑って言った。 「はい、お好きなお席にどうぞ。メニューはないですが、大体のものは揃っているかと思います」 「はぁ」  そう言われて、カウンターの奥から二番目の席に腰を掛けた。  メニューがないというのは困るものだなと思った。正直、珈琲も紅茶も詳しくはないし、小腹も空いているが何が食べたいというのもなかなか浮かんでこない。俺が困っているのを察したマスターがカウンターの中から声を掛けてくれる。
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