cielo blu -another story-

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「何でも構いませんよ。たとえば思い出のものとか、ふとこんなの食べたいなとか。ちなみに、今は焼き立ての食パンが入っているので柔らかいサンドイッチやトーストなんか作れますよ」 「サンドイッチ、丁度いいですね。小腹が空いていたんです。それと…思い出のものか。……キリマンジャロ、いただけますか」 「……かしこまりました。大丈夫です、ございますよ」  今の間は何だったんだろう、とふと思ったがマスターは笑顔でそう言うと、先に準備していたらしきオーダーを持って店の奥の席に運んでいった。こちらからは死角になって見えない席だが、誰かがいたらしい。まぁいいか、と思って職場のグループチャットを開いていた。うちの職場で今やっているチームのチャットだ。そこでは基本、仕事の報告や明日までになになにをやってくれといったようなことしかやり取りをされない。雑談は個人でやってくれというような雰囲気があるため誰も余計なことは言わない。”了解しました”のスタンプが並んでいるのを見て、周りの若さを感じていた。  俺も昔は若かったはずだ。もっとバイタリティに溢れていて、そして、彼女とも最初はよくデートをして。三年くらい経った頃だろうか。お互い自分の時間も必要よね、と彼女が言い出して。そうしてお互いの時間も楽しめるようになってきたと思ったら、いつの間にか俺たちの間には踏み込めない溝のようなものが出来上がっていた。なんとなく、どこかで分かり合えないような気になって、癇に障るようなことを言ってしまったりした。そんな日々だった。  懐かしい過去を振り返ろうとしても、そこに埋め尽くすのはいつだって後悔だった。彼女は昔は海のような人だった。なんでも受け入れてくれて、おおらかで。けれど、本当はとても傷付きやすい優しい人だったのだと思う。俺がそれに甘えてしまったがために、彼女と離れるしかなくなったのだと思う。そんなことばかり考えていると、いつの間にか戻ってきていたマスターがいることに気が付いた。戻ってきたのに気付かないほど、思考の迷路で彷徨っていたらしい。 「考え事ですか」  マスターがそっとそう言った。 「ええ、ちょっと。……あの、初対面の人となら、気軽に話せることってありません?」  俺は、気付いたらふとそんなことを口にしていた。
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