cielo blu -another story-

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「ありますね。新しく行く美容院や接骨院、それに偶然意気投合した酒場の隣の人となんかだと、次に会うことはないんだからと思うのか、つい話し過ぎてしまったりしますよね」  そんなマスターの言葉にすこし心が解れた気がした。 「そう。で、二回目に行ってみると案外話すことがなくなったりして気まずくなるんです。そういうことがちょくちょくあって、もう出会いもなくなりましたね。はは」  つい語尾に笑いを張り付ける人は、自分に自信がないのだとどこかのコラムに載っていたっけ。そんなことがふと頭を過っていた。  出会いなど求めていなかった。もういいのだ。あんなに優しかった彼女を失って、俺という人間は人と深く関わるべきじゃないのだと思った。 「出会いは求めるようなものじゃないですからね。偶然か必然か、人は出会うと思うんです。あなたにもそのうちいい人が見つかりますよ、なんて在り来たりなことは言いませんが、……そうですね。普段気にしていなかったことがふとしたことで見えるようになったりするんですよ。出会いって、そういうものだと思いますよ」 「普段気にしていなかったもの、ですか。はは、俺より若そうなのに、俺よりずっと大人なんですね、マスターは」  つい、マスターと呼んだことに一瞬合っていたのかと考えてしまった。 「いえ、ここには色んなお客様がいらっしゃいますから、ここで僕も勉強させていただいてるんです」  謙遜するようにそう返されて、マスターで合っていたんだなと胸を撫で下ろした。 「素直に人と向き合うって、簡単そうで意外と難しいですよね。そのときの空気があって、その中で行動しようとしたとき、ふと思ってもいないようなことを言ってしまったり」  この十年、桜のことばかり考える人生だった。忘れたことなどなかった。それでも、もう十年だ。そろそろ歩き出さないと、とはずっと考えていた。 「お待たせしました」  マスターがカウンターから出てきて、珈琲とサンドイッチを運んできていた。 「キリマンジャロと、小腹が空いているなら丁度いい量かとハムとレタスのサンドイッチにしてみました。お口に合うといいんですが」 「ハムもレタスも好きですよ。ありがとうございます。なんだか不思議なお店ですね。なんでもお見通しのようだ」  俺は、本当に驚いていた。さっきコンビニでハムサンドでも買って帰ろうかと思っていたところだった。もうずっと、コンビニ食やカップ麺生活をしていた。健康に悪いと分かっていても、自炊などする気にはなれなかった。キッチンは綺麗なままだ。
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