cielo blu -another story-

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「たとえばなんですけど、仲良く付き合っていたカップルがお互いの時間を取ろうと話し合った途端、妙に距離ができてしまう原因ってなんだと思います」  先に珈琲をお願いしたのでカウンターにいたマスターに俺は問い掛けた。こういう場合、例えば友人の話なんですけど、などと話し掛けるのと同じで自分自身の話をしていると思われるのは百も承知だった。 「んー、どういう状況かでだいぶ変わると思いますけど……、例えば自分の時間を作ることで新しいコミュニティーができたとしたら、そこの空気に合う自分になったとき、相手のことを思い遣るという気持ちが欠けてしまうことはあると思いますよ。一過性であれば修復も可能だと思いますけど、お互いに思い遣りが欠けてしまった、というのが結局のところじゃないですかね」  やはり”思い遣り”か。自分でも思っていただけに、その言葉はすんなりと心に入ってきた。しかし、お互いに、か。彼女もまた、俺のことを思い遣る心が欠けてしまっていたのだろうか。自分のことばかり考えていたので、彼女がどうだったかを思い出すことはなぜかもうできなかった。  珈琲を飲んでいる間に作ってもらったドリアを食べ終えて、そろそろ帰ろうかと思いつつぼーっとしていたときだった。  カラン。  ドアベルが静かに音を立てた。いらっしゃいませ、と出ていくマスターと、また女性の声が聞こえた。耳をそばだてるほどの興味はなく、俺はまたグループチャットを開いていた。部長からのお叱りは部内の人間みんなが見ていたのでなんとなく居心地悪い気もしたが、考え事の方で頭がいっぱいで仕事中もやはりそれどころではなかった。それでも、今度はミスのないよう細心の注意は払ったつもりだ。案の定、グループチャットにもなんの指示も来てはいなかった。一先ず胸を撫で下ろしていたときだった。二つ隣りの席に、女性が腰を掛けるのが分かった。他のすべての席が空いているのにカウンターに人が来ると思わず、俺はなぜか少し緊張していた。すると、すぐに隣りから驚くべき声がした。 「えっ、……純…也?」  名前を呼ばれ、パッとそちらを見たとき、俺は信じられない思いだった。 「桜……」  それから、お互いのこれまでの十年、なにをしていたのかを話した。彼女は職を転々としていたと言っていたので、もしかしたら色々大変だったんじゃないかと思った。思い違いであればいいが、心を病んでしまってはいないだろうか、そんな想像をしてしまった。こちらについては、職が変わって家も変わったとはいえ、生活の変化はあまりなかった。
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