cielo blu -another story-

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 逢いたかった。逢いたかった桜が今目の前にいると思ったら、俺はもう我慢が出来なくなっていた。 「桜を失って…とうぶんなにもする気になれないほどだったんだ。それで、仕事も家も変えて。ようやく生活に慣れ始めた頃には人との付き合い方も忘れてたよ」  そう言ったとき、桜は信じられないという顔をしていた。 「どうして?お互い話し合って、それが一番だって別れたじゃない」 「続けることが、あの時は無理だと思ったのは本当だよ。それでも……愛してたんだ」  言ってしまった。言ってしまったからにはもう引けなかった。 「あのときは、別れしか選べなかったの。だって、お互い傷付けるしかできなくなっていたでしょう」 「そうだね。……また、恋を始めることはできないかな。一からでいい。今度はちゃんとお互い話をして、嫌なことは嫌と言って、たまに譲歩して。そうやってもう一度始めることはできないかな」  もう後悔はご免だった。お互い、思い遣りを持って、もう一度。もう一度始めることはできないだろうか。祈る思いで、彼女を、桜を見ていた。彼女は一つ深呼吸すると、口を開いた。 「ほんとに、変わらないのね。でも、変わらないままだとまた同じことになるから、お互い成長しないとね」  涙が出る思いだった。格好悪いから必死に我慢したけれど、本当に涙が溢れそうだった。そんな素振りなど、微塵も見せないように俺は笑った。できる限り自然に。 「ありがとう。隣り、行ってもいいかな」 「ええ、勿論」  やっと、降り続いた雨は上がったようだった。いや、これからが始まりなのだけど。雨上がりの一杯は、お互いの思い出のキリマンジャロにした。初めてのデートで二人して頼んだ珈琲。俺はそこに一匙の砂糖を。豊かな酸味に適度な甘さを。これからの俺たちがそんな生活を送れるかは二人次第。この十年でどれだけお互いが成長したのか。それを楽しみにしようとキリマンジャロを一口啜るのだった。桜が隣りで笑っている。そんな細やかな幸せを、これから続けていけるように。
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