序章・雨は恋の味 ②

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序章・雨は恋の味 ②

「おお~!スゲー!スゲー!俺、めっちゃ、背が伸びた!」 「お前、重たくなったなぁ」 「めっちゃ食べてるし。ヒデちゃん、目指してるもん。それにしても、ヒデちゃん、やっぱデケーなっ!身長何センチあんだ?」 「190かな。まだ伸びそうだけど」 「俺も高校生になったら、ヒデちゃんみたくデカくなっかな?」 「いや、それは無理だろ。お前んとこの家族、全員ちっさいじゃん」 馬鹿にされたように感じた亮太は、秀樹の胸をポカポカと殴った。 それを小脇にひょいと抱え直すと、秀樹はそのまま丘を登り始める。 赤ちゃんの頃から秀樹に抱っこされている癖のある亮太は、そんな扱いにも慣れっこだった。 「ヒデちゃん。最近、あんまり家に帰って来ねぇな」 「全日本に呼ばれたからな。バレーボールをやってると、遠征ばっかりで、なかなか落ち着けない」 「俺、またヒデちゃんとこの家族と、トンカツ食いに行きてー!なぁなぁ、今日はせっかく帰って来てんだから、トンカツ屋行こうよ~!」 「馬鹿だな。警報出てんのに、外に出れる訳がないだろ?家で大人しくしてろ!」 秀樹に諭されると、小脇に抱えられた亮太はブーブーと文句を言い出した。 秀樹は仕方なく、抱える亮太の顔を覗き込んだ。 「分かったよ。母さんに言っておくから、お前、今日は家で晩御飯食ってけ。そんで、ついでに泊まっていけよ。明日は休みだろ?」 「え?マジで?ホントにいーの?」 「良いよ。その代わり大人しく寝てろよ。お前、寝相悪いからな」 「わぁい!やった~!ありがとー!ヒデちゃん、大好き~!」 亮太の言葉に、何故か秀樹の顔は真っ赤に染まった。 亮太を抱えていない方の手で口を押さえているが、頬の赤さまでは隠し切れていなかった。 「何だ?ヒデちゃん……。顔が赤ぇぞ?雨に濡れたから、風邪でも引いたか?」 「何でもねぇよ!お前は大人しく抱っこされてろ!」 秀樹はクルリと亮太を抱え直して、前抱きにした。 猿の子のように秀樹にしがみついてきた亮太は、肩に顔を埋めて「ヒデちゃん、大好き」と囁いた。 その言葉に、秀樹の顔は更に赤く染まったが、亮太はもうそれを気にはしなかった。 秀樹の活躍は世界でも注目を集めるようになって、益々、実家へ帰って来る事が少なくなった。 高校を卒業して、バレーボールでも有名な企業に就職が決まったと聞いてからは、一度も家に帰っては来なくなった。 テレビの中継に秀樹の姿を見る事がなくなっても、亮太は忘れなかった。 大きくて、優しくて、カッコいいお兄ちゃんの存在は、亮太の中でいつまでも輝いていた。
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