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クリスマスの秘密6
「うそ……」
私は気が付けば一人呟き立ち上がっていた。夢でも見てる気がして――でもその光景は確かに目の前に広がってる。戸惑い、混乱、感悦――私の中には一瞬にして満天の星のような無数の感情が現れては混ざり合い……自分自身でも良く分からない。
そしてまるで傀儡が糸で勝手に動かされるように私の足は前へと歩みを進め、状況も感情も何一つ分からぬままおじいさんの前で立ち止まった。少し距離を空け僅かに見上げながら向かい合う。
するとその時――目の前の光景と鮮明な記憶が私の中で重なり合った。それは多少違っているものの幼い私がしたあの特別な体験と同じものだった。
「サンタさん?」
「ほっほっほっ。しっかりと良い子にしておったかな?」
記憶と同じ、それ以外に理由はない。言葉を借りるなら不合理的なものだけど、私の中には確信があった。今目の前にいるのがサンタクロースだという確信が。
それが分かったその瞬間、私は一体どんな顔をしていたんだろうか。ある日突然、大好きなスターが目の前に現れた人と同じで最初に驚愕の波が押し寄せ、更にそれを呑み込む驚喜で溢れ返る。どれだけ平然を装おうとしても興奮で口元は緩みっぱなし。きっと何とも幸せに満ちた喜色満面でもしてるに違いない。
「やっぱりあの時も夢じゃなくて本当だったんですね!」
「夜に子ども一人で外に出るのは良くない事じゃよ」
「すみせん」
謝罪の言葉を口にしながら後頭部へ手をやり軽く頭を下げていた私だったが、今は浮かれた気持ちの方がそれを上回っていた。
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