クリスマスの秘密8

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クリスマスの秘密8

 鳥になったとも違うし、箒に跨って空を飛ぶのとも違う。銀河を走る列車に乗っているのとも違ければ、自転車とも違う。私は今正に雪舟に乗って空を駆ける事でしか出来ない体験をしてる。程よい風を感じ、大空から街を見下ろして――。どんなアトラクションよりも楽しくて、どんな日よりも特別で、どんなプレゼントよりも豪華な体験。 「どうじゃ? 空から見る景色は?」  サンタさんの声に私は改めて街を見下ろした。無数に光る地上の星はまるで街全体で作るクリスマスツリーのようだ。私がすっかりクリスマス気分っていうのもあるんだろうけど、その煌びやかさが幸せの燈火に見え、なんだか見ているだけで心が温かくなる。 「すっごく綺麗ですし、何より温かいです」  下を見ても星が輝き、上を見ても星空が広がってる。今の私はどこを見ても絶景を楽しめるとんでもない状況にいるらしい。 「ほっほっほ。もう少し行くとするか」  そう言いサンタさんが手綱を振るうと雪舟の速度が更に上がり、夜空のジェットコースターのように刺激ある動きをし始めた。密かに夜の空へ響く私の声を連れ、雪舟はオフィス街へと近づいていく。 「サンタクロースという存在を人々は大人になるにつれ忘れてゆく。いや、正確に言うのならサンタクロースを信じる心を、じゃな。故にいつの日か単なる夢物語として単なる想い出となってゆく。人間は大人になればなる程、理由を欲しがるからの。良くも悪くも子どものように心へ真っすぐではいられなくなる」 「でもサンタさんには申し訳ないですけど、その気持ちも分かりますけどね。私も子どもの頃にあぁやって会えて無かったら分からないですし」 「儂もあの夜に子どもと出くわしたのは初めてじゃ」  陽気に笑うサンタさんの隣で胸を張れない私は少し小さくなっていた。
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