クリスマスの秘密10

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クリスマスの秘密10

「あれじゃ」  そう言ってサンタさんは下の方を指差し、少し遅れて私も視線でそれを追った。 「え? あれって……」  そこには一人の少女が立っていて、その前にはサンタさんの姿があった。私は思わず隣を確認してしまったが、確かにどっちもサンタさん。 「どうしてサンタさんが二人も?」 「よく見てみるんじゃ。あの子に見覚えは無いか? この光景に」  私はそう言われ喜色満面な少女を穴が開く程に見つめた。  するとその少女が飛び跳ねながら両手を上げる反応と同じ声で口にした言葉が聞こえて来た。 『私ね! 良い子にしてたよ! 良い子にしてた!』  見慣れた街並みとその言葉、そしてサンタさんを目の前に燥ぐ少女――私は推理小説で最後のピースが完璧に填まった時のように脳内で細胞が繋がり合うのを感じた。 「嘘……。そんな事って……」  でも同時にそれは余りにも信じられない答えでもあった。  なぜならそこにいるのは――私自身だったのだから。幼い頃の自分がどんな見た目だったのかは正直分からないけど、確かにそれは鮮明に残る記憶と同じ光景だった。目の前にサンタさんがいて、その後ろに雪舟と九匹の馴鹿がいる。 「これって過去に……タイムトラベルしたってことですか?」  自分で自分を見るなんて奇妙な状況の中、誰しもが真っ先に思い浮かべるであろうありきたりな答えを口にした声は困惑で少し震えている。 「正確に言えばそうではないが、そう理解しても問題はない。互いに干渉は出来んがの」  やっぱり私は今、過去の世界にいるんだ。そう思うとシーソーゲームのようにまた別の疑問が浮かび上がって来た。 「でもどうしてここへ?」 「もうすぐじゃ」  そう言ってサンタさんは幼い私の方を指差した。それは丁度、あの時のサンタさんに言われて目を瞑ろうとしている時。幼い私は言われた通りに目を閉じ、サンタさんの手が頭から離れた。  そしてサンタさんが振り返ると――。 「っ!」  私は思わず息を呑んだ。
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