クリスマスの秘密26

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クリスマスの秘密26

『私立夜星大学理事長 安居院晴信』  勢い余って起き上がり画面をじっと見つめる私。何度見てもそこには理事長って文字がある。 「え? 理事長って、あの理事長だよね……」  困惑しつつも私は続きを読んでいく。内容は、表向きはAO入試で入学するらしいけど願書だけを同封の封筒で送ってくれればいいというもの。一応、面接はあるものの受かる事は確実で緊張する必要はないらしい。 「理事長から直接連絡が来ちゃった」  でもそんな裏口入学みたいな内容よりも理事長から直接メールが来たという方が私にとっては事件だ。何だか自分が特別な存在になったような気がして少しばかり興奮に心臓が嬉々と脈打つ。 「いやでも――理事長って書いてあるだけで本当に理事長かは分からないか」  そう思った途端、急に冷めてきて私は願書を書いておくことにした。  それから事は坂を転がるボールの如く順調に進んでいき、気が付けば進路も決まり私は卒業までの時間を謳歌するだけだった。友達と想い出を一つでも多く残す日々。楽しさで連なる毎日を過ごし――あっという間の卒業。  そして友達とも両親とも別れを交わした私は一人北海道へ。変わりゆく景色を眺めながらもまだ、私は人生において大きな変化が起きているという事を実感することが出来ていなかった。景色だけじゃなく既に変わり始めているにも関わらず、未だ心のどこかではこれまでの日常と何も変わらないような気がしていた。
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