相談相手

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 コンビニに行くたびに少しずつ話をするようになった。それが嬉しくて瑠衣は足繫くコンビニに通った。毎日のようにお菓子やらジュースを買い食いしていたから、肌も荒れたし体重も増えた。  当時の瑠衣は顔のことは言われても体型までバカにされることはなかったから、体重が増えていくことへの関心はなかった。  ある日、瑠衣が買い物を終え自転車で帰路に向かう中、信号待ちで袋の中を確認した。そこには前の客が取りやめた商品が間違って入っていた。代金を払っていないことに気付き、戻ったがレジに彼の姿はなかった。  他の店員に理由を話し、レシートと照らし合わせて返品した。ホッと一息ついて外に出ると、裏口から私服を纏った意中の彼が現れた。私服姿を見れたことに歓喜した瑠衣だったが、すぐに彼に近寄る美少女に目を移した。 「お疲れー!」  そう言いながら彼の腕に自分の腕を絡めた。 「お待たせ。ご飯行く?」  美少女に話しかける彼の声はいつもにも増して優しかった。寄り添う姿に恋人なのだろうと察した。  そりゃそうか。自分はただのお客さんで、彼は店員。客だから優しくしてくれただけだ。彼女になれるわけじゃないのに……。  わかっていてもショックだった。好きな人に彼女がいたのだから、告白していないのに振られたのと同じだ。けれど、それだけなら瑠衣だって失恋のショックだけで済んだ。  帰ろうと背を向けた時、瑠衣の存在に気付いていない2人が会話を続けていた。 「さっきS高の制服着た子がさ、ものすごい形相でチャリ漕いでたの。それで店入ってった」 「え? まさか鼻のデカいほっそい吊り目の女?」 「そう! めっちゃブスだった。あの顔だったら死ねる」  少女は美しい顔に似合わず汚い言葉で罵った。 「俺が上がる前に店きたばっかだよ」 「何それ、ストーカー? こわ」 「なんかさ、妹と同じ高校だからって声かけてやったら勘違いしちゃったみたいで毎日くんだよね」 「きもー。狙われてんの?」 「多分俺のこと好きなんだと思う」 「ちょっと、モテアピールやめて」  少女は男の腕を引っ張ってむくれてみせた。 「あんなデブスにモテるなんて人生の汚点だよ。でもああいう男慣れしてない子って、下手に冷たくすると本物のストーカーになりそうじゃん」 「犯罪しそうな顔してたもん」 「だろ? 一応客だし無下にはできないし。あーあ、ブスは全員滅んでくんないかな」 「店員の立場から言えないなら私が言ってあげようか? デブスは豚箱にお帰りくださーいって」  2人はきゃあきゃあと嬉しそうに寄り添いながら時折肩をぶつけ合っていた。瑠衣は目にいっぱいの涙を溜めて2人の背中が小さくなるのを見ているしかなかった。
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