相談相手

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 瑠衣だって美しいものが好きだ。男性アイドルだって、女優さんだって皆素敵に見える。けれど、あんなふうにバカにするような人間を容姿だけでいつまでも好きでいられるはずがなかった。  その日を境に瑠衣はコンビニへ通うのをやめた。  転機が訪れたのは看護の専門学校へ入ってからだった。瑠衣は自ら望んで看護師になったわけではない。父から「器量が良けりゃ嫁の貰い手もあるだろうが、このままじゃ1人で生きていくことも考えなきゃだぞ。手に職をつけなきゃ生活していけんだろ」と言われたからだ。  瑠衣は今までの自分への扱いを振り返ってその通りだと思った。国家資格を手に入れて、そこそこ給料がもらえる仕事に就かないとこのままでは生きていけない。本気でそう考えた。  特段頭がいいわけではない瑠衣は、自分の学力でも取得できそうな看護師になることにした。  看護学校は想像していた通り、女子生徒の方が多かった。男子も数人いたが、中学の時のように容姿をからかう者はいなかった。表立って瑠衣を標的にする者もいない。  今までの学校生活に比べると幾分か気持ちが楽だった。しかし、実習先ではそうはいかない。指導者も先輩看護師も、心なしか他の生徒に比べて自分への扱いが厳しいように感じた。  怒られることも多く、元々なりたくて目指した職業でもないからすぐに学校も辞めたくなった。けれど、辞めたら人生終わり。そう考えると瑠衣には進むしか道はなかった。  ある日のこと、クラスメイトの1人である多田秋帆(ただ あきほ)に声をかけられた。誰もいなくなった教室でたまたま2人きりになった時のことだった。 「ねえ、あんまり話したことないのにこんなこと言うのなんだけどさ。堀江さん、整形しないの?」  ほとんど会話をしたことのない彼女にそんなことをハッキリと言われ、瑠衣は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。秋帆は、くりっと大きな瞳にすっと鼻筋が通っていて、誰が見ても可愛い女の子の分類だった。  実際通りがかりに目を引くし、クラスの男子も少し彼女を気にしているようにも見えた。 「整形って……」  瑠衣はぐっと下唇を噛んだ。直接ブスと言われるよりもキツイかもしれない。そんなふうに思った。しかし秋帆はスマホを取り出し、少し操作をすると画面を見せた。そこにはいかにも不機嫌そうな女の子が写っている。それもお世辞にも可愛いとは言えない。瑠衣でさえもそう思った。 「これ、私。誰にも言ってないけど私整形してるんだよね」  彼女の言葉に瑠衣は更に驚いた。
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