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時間の経過とともに手術の違和感は消えていった。自分でも見慣れてくると、もっと自然に思えた。瑠衣はそれだけで十分満足したが、周りはそうではなかった。
マスクから出ている目元部分はパッチリ二重で可愛いが、食事中や汗を拭くためにマスクを取れば、途端に以前のように好奇の目で見られる。そしてまたヒソヒソと聞こえてくるのだ。
「あの人可愛いと思ったのにマスク取ったらヤバかった」
「マスク美人って怖いよね」
笑い声が聞こえる度に自分のことのなのだとわかってしまう。マスクを取るのが怖くなって、一層手放せなくなった。そうなってくると今度は鼻や口元も直したくなった。
歯並びが悪いだけでも顎のラインが崩れる。だから歯科矯正もしたいし、二重顎も何とかしたいと欲が出てきた。
けれど美容整形はなんといっても金額が高い。二重にするのにだってバイトをしてコツコツ貯めた給料だけでは足りず、両親が貯金していたお年玉から少し出して10万円をかき集めたのだ。
それだって相当な金額だと思ったが、歯科矯正や鼻整形、顔骨格を変える骨切りなど合わせたら数100万はかかる。それでもどうしてもやりたかった瑠衣は、これまた両親に頼み込み2年生から奨学金を借りてもらうことにした。
奨学金は月5万円入金される。2年で120万円だ。瑠衣の家は裕福ではなかったが、奨学金を借りて通学するほど貧困でもなかった。だから、学費は両親に出してもらい奨学金も両親に前借する形で整形費用に充ててもらった。
卒業後は自分で奨学金を返済することを約束したのだ。働きながら自分で返すことになったって、今のバイト代を全額両親へ返済に充てたって、元の顔で生き続けるよりもよっぽどよかった。
長期の休みを使って瑠衣は整形を繰り返した。大体ダウンタイムはどれも半年程度だが、最初の1週間は腫れと浮腫みでパンパンに膨れ上がる。2週間経つ頃には内出血が落ち着いてきて、1ヵ月経つ頃にはそこまで目立たなくなる。
それでも傷口だけは1ヵ月ごときではなくなりはしない。夏休みが1番長いものの暑い時期は汗もかくし膿みやすく、感染症のリスクも高い。より注意が必要だったが瑠衣はなんとかそれも乗り切った。
鼻やあごの手術をした時には、食事もままならず睡眠も十分にとれなかった。けれど、二重を手に入れた時の期待を考えれば、そんな苦痛などなんてことはなかった。
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