相談相手

15/20
前へ
/22ページ
次へ
 数ヵ月後には専門学校を卒業するという頃には瑠衣は見違えるほど美しくなっていた。しかし、周りのクラスメイト達は、少しずつ半年ごとに変っていっているためその大きな変化には気付かなかった。  整形をする勇気をくれた秋帆に感謝しながら、新たな社会人生活に期待をした。けれど、その期待も虚しく瑠衣は秋帆と一緒に卒業することができなかった。  3年生最後の実習もあと3つ。そんな中、瑠衣は実習に合格できなかった。実習先で実習指導の看護師にマスクを外して挨拶するよう言われたが、瑠衣の鼻や人中にはまだ傷跡がくっきりと残っており、外すことができなかったのだ。  その場では嫌な空気に包まれながら、実習グループメンバーの痛い視線に耐えた。だが当然個人的に呼び出され、理由を聞かれたのだ。  顔には傷跡があり、人前では見せたくなかったと話した。事故によるものかと思った実習指導の看護師は納得したが、専門学校の自習担当の講師はそうではなかった。  入学の面接を受けた時、瑠衣の顔にそんなに大きな傷はなかったと覚えていたからだ。そして、在学中に大きな事故をしたとも聞いていない。問い詰められ、瑠衣は白状するしかなかった。  傷跡を見た講師は呆れ、溜息をついた。「看護師になる自覚がたりない」そう言われ、瑠衣はその実習を落とされた。  実習は1つ落としたら即留年が決定する。どんなにあがいても無駄だった。そして、それと同時に奨学金の一括返済が求められた。  ここで瑠衣の人生設計は大きく狂った。両親は瑠衣の整形費用を出し、更に奨学金の120万円もすぐに返金しなければならなくなった。  貧困ではなかった瑠衣の家は、一気に貧しくなり妹の学費も出せないほどだった。  まさかこんなことになるなんて……。と瑠衣は絶望感でいっぱいだった。皆と同じようにストレートで看護師になり、秋帆と同じ病院で同期として働ける。これからは自分の力で稼げると夢見ていたのに、全てが台無しになった。  整形費用は自分で出せばいいと思っていたのに家族に迷惑をかけた。妹からは「お姉ちゃんのせいで行きたい高校にいけなくなった」と泣かれた。  いっそのこと、このまま看護師になるのを諦めようと思った。今から働けば、奨学金分くらいは両親に返せる。妹の学費も少しくらい援助ができる。そう考え、瑠衣は担任に退学届を提出した。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5238人が本棚に入れています
本棚に追加