相談相手

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 担任は、穏やかな口調で退学する必要はないと言った。実習担当の講師と担任は異なり、担任は理解のある人間だった。  看護学校の講師は、全員看護師免許を持っている。実際病棟で経験を積み、教育の勉強もしてきた者が講師となる。  そのため、担任も当然看護師なのだ。 「在学中に大きな傷が残るような手術をしたことは、軽率だったと思う。病気や怪我で苦しんでいる人達がいて、あなたはそれを癒す人になろうとしてる」 「はい……」 「だから、看護学生は品行方正に、患者さんに寄り添えるよう身の振る舞いにも気をつけなきゃいけない」 「はい」 「でもね、あなたが凄くコンプレックスを感じているのは伝わってきてる」 「え……?」  頭ごなしに叱られることを想像していた瑠衣は、口をぽかんと開けて担任の言葉に耳を傾けた。 「誰にでもコンプレックスはあるものよ。それを整形で克服できるなら悪いことだとは思わない。でもね、問題は勉学に励んでほしいと病院が貸してくださった奨学金を使ったことよ」 「そうですね……」 「しっかりと残りの実習に合格して、看護師になって自分の力で稼げるようになってから思う存分自分に使いなさい」  担任は、優しく瑠衣の両手を握った。瑠衣は驚いたが、少し気持ちが温かくなるのを感じた。 「留年しても3年生の半分は単位が取れてるから、辞めなくても働けるわ。奨学金を借りた分を自分で働いて返すという強い意志があるなら、堀江さんならきっと素敵な看護師になれると思うの。だから来年、また頑張りなさい」  妙に納得させられ、瑠衣はもう1年頑張ることにした。実習の半分以上は終わっているから、単位が必要な座学と実習以外は登校する必要がなかった。  その間、フルでバイトをして少しでも両親に返済すればいい。どうせ辞めて働いたって、同じようにコツコツ返済するしか方法はないのだから。そう考えを改めた。
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