相談相手

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 瑠衣の妹は結局奨学金を借りて行きたい高校へ進学することができた。恨み言は何度も聞かれるが、それでも瑠衣は一生懸命バイトをしてその分を両親に返済していった。  成績が悪かったわけではない瑠衣は、翌年全ての実習をクリアし、無事に国家試験にも合格した。就職した先で出会った成美に1から看護師としての仕事をみっちり教えてもらったのだ。  看護師として働き始める頃には傷も化粧をすればほとんど目立たないほどになっていた。だから、入職後には「すごい綺麗な子が入ってきた」と噂されたほどだ。  瑠衣にはこの変化が嬉しかったが、顔が可愛くなったからといっていきなり自信に満ちた性格に激変するわけではない。過去に散々抉られた傷は深く、人間不信はずっとあった。  最初は成美に対してもそうだった。美人で冷静沈着で仕事ができて皆から好かれている。何度も整形を繰り返している瑠衣には、整形している人を見ればどこを施術しているかわかるようになっていた。けれど成美にはそれがない。  こんなにも整った容姿をしているのに、天然の素材だというのだからとても信じられなかった。  しかし、容姿が整っていればいるほど過去の嫌な思い出が蘇る。高校生だった時の自分が可哀想で仕方がなかった。好きだった人にも、関わりのないその彼女にも「ブス」だと揶揄された。  きっと成美も、周りの人間を見下して美しい自分に酔っているに違いないと思っていた。どうせその内本性を現すと思っていたのに、成美はいつまで経っても誰からでも愛される人間だった。  一般的に容姿に恵まれていない人にも、太って鼻息を荒くしている人にも全員に平等に接するのだ。他の看護師が陰で容姿いじりをしていれば「私、あまりそういう話は好きじゃないわ」とぴしゃりと言い放った。  瑠衣が客観的に見ていても気持ちのいいものがあった。自分の意見をしっかり持っていて、他人に流されることがない。けれど、考え方は柔軟で他人の意見でもいいと思ったものには快く賛同する。  強くて勇ましくてカッコいい人だけれど、素直でとても可愛い人だと思った。
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