相談相手

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 成美が言ったようにがむしゃらに仕事をしていく内に、他人と話すことに慣れていった。最初の内は入院患者も全員初対面なのだ。苦手だからと会話をしないわけにはいかないし、他の看護師と情報共有しないわけにもいかない。  コミュニケーションをとることも仕事の1つだと割り切れば、そんなに難しいことではないように思えた。けれど、成美が言った「信用できる」とはまた違った。  他者と笑顔で会話ができるようになったし、一丁前に社交辞令まで言えるようになった。けれど、腹を割って話せる友達のようなものはいないし、プライベートで付き合う間柄のスタッフもいなかった。  そんな時につばさから食事に誘われたのだ。つばさはそれほど口数の多いほうではなかったから、瑠衣も話題を探すのに苦労したが「きっとこの人も他人とコミュニケーションをとるのが得意じゃないんだろうな」と思うと親近感が湧いた。  それに、瑠衣に慣れてくると笑顔を多く見せてくれるようになったし、必死に愛情を伝えてくるようになった。つばさは職場仲間だったし、医師は看護師を見下している人間も多いから恋愛対象にはなりえないと思っていたのだ。  それでも瑠衣にとってはそれほど愛情を与えてくれる人間に出会ったことはなかったし、好きだと言われることが涙が出るほど嬉しいものなのだと知ることができた。  気付けば瑠衣の方がつばさを好きだったし、尽くしていた。瑠衣にとって初めての彼氏だ。デートもキスもセックスも初体験は全てつばさとだった。今まで恋愛に恵まれてこなかったけど、初めて付き合えた人と結婚できるなんて、たくさん恋愛をしてきた人よりも幸せなのかもしれない。  そんなふうに目の前に現れた幸せに手を伸ばしたというのに、呆気なく奈落の底に突き落とされたのだ。
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