相談相手

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「まだ瑠衣ちゃんは若いんだから大丈夫。私だって再婚は32でしたんだからこれからいくらでもチャンスはあるわ」  成美はいつまでも泣いている瑠衣に微笑んだ。頬を流れる涙を手で拭いながら、瑠衣は成美の再婚という言葉にピクリを眉を動かした。 「ただいまー」  その時、ちょうど声がして成美と瑠衣がいるダイニングへと男性が顔を出した。成美の夫である柏木(かしわぎ)瑞希(みずき)だ。中性的で美しい男性だった。成美よりも3つ年上のはずだが、瑠衣と同い年だと言っても通ってしまうほどの若々しさがあった。  アイドルのようにキラキラとした笑顔を瑠衣に向け「堀江さん、こんばんは」と言った。  瑠衣はそんな笑顔を向けられ、不機嫌そうに「こんばんは……お邪魔してます」と言った。絶対に忘れるわけがなかった。この男に抱いた憎悪を。今はこんなふうにいい夫のような顔をしていけしゃあしゃあと挨拶してくるが、何を隠そう、この男は元夫と共謀して成美を陥れようとしたのだ。  成美の計画で全て覆り、成美の完全勝利となったが、成美がここまで賢くなければ2人に騙され、成美はこの男と不倫関係に移行し元夫から慰謝料を請求されてもおかしくはなかったのだ。それも、元夫が自分の不倫を棚にあげ成美が有責の状態で離婚に持ち込もうという目論見があったからだ。  瑠衣は離婚後にこの話を聞いたが、まさか瑞希と再婚するなんて思っていなかった。 「私、あの人だけは嫌です!」  瑠衣は泣きながら瑞希のことは認めないと言った。瑞希が命を懸けて成美を守ったことも、改心して全ての愛情を成美に注いでいることも知っているが、一度でも成美を傷付けた男に成美を任せるわけにはいかないと思った。 「ありがとう、瑠衣ちゃん。私のために泣いて怒ってくれる後輩がいるなんて、私もまだまだ捨てたもんじゃないわね」  成美は穏やかにそう言ってから「私なら大丈夫よ。私がそう簡単に絆されると思った?」と続けた。笑顔なのにその裏には少しばかり黒いものを感じて、瑠衣は成美なりの考えがあるのだと納得するしかなかった。
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