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瑠衣は容姿のことばかり気にしていた。看護師として働いてきたから、収入はそこそこあったし、同世代の友達と比べても生活水準は高い方だ。
この仕事に就いたから、両親に借りたお金を返せたし、妹にも小遣いをやることができた。もちろん整形だってそうだ。ボーナスが入ればその全額を整形に充てても生活が苦しくなることなんかなかった。
しかし、事務職の友人は毎月手取り16万円で生活がやっとだと嘆いているし、スーパーで働いている友達は何のために働いてるのかわからなくなってきたと無気力だった。
瑠衣は父親から手に職を持てと言われて看護師を選んだが、そんなに嫌いな仕事ではなかった。もちろんキツイが、この先病院を辞めても働き口はいくらでもある。
派遣でも稼げるし、クリニックや施設なら病院よりも業務量は少ない。それに、転職も簡単だった。だから今後の生活を不安に思ったことはないし、働いたらまた整形に使えると思えば働く意義にもなった。
そう考えると、自分の今現在の生活はあまり不満のないものだ。瑠衣のこの自由な生活を羨ましいと感じる人間はいくらでもいる。容姿にばかり囚われていたが、人を見下す材料はそれだけではないのだ。
「そう言われてみればそうですね……。家がお金持ちだとか貧乏だとか、子供がいるとかいないとか」
「そう。そうやって他人と比べてどっちの方がどれだけマシ、なんて考えながら生きている人がいる。でもそれってすごくつまらないことだと思うの。だって、自分の好きなように生きた方がずっと楽しいじゃない」
「そうですね……」
「瑠衣ちゃん、今は楽しい?」
「え?」
「宇野先生のことは悲しくて辛いことだったと思うけど、それ以外の生活はどう?」
「それ以外……。うーん、まあ楽しいです。整形もやりたくてやってるし、ジムに通うのも苦痛じゃなくなったし、今は周りの人もいい人ばっかりだし……」
瑠衣は、現在の状況を思い返してみた。新人の頃は怒られることが多くて嫌になったが、注意されるのだってしっかりと根拠があった。自分に非があったから怒られても仕方がないと思えた。自分に非がないのに蔑まれた時とは違う。
先輩も後輩も笑顔で接してくれる人ばかりだった。
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