5875人が本棚に入れています
本棚に追加
「洋食好き? 前に堀江さんはあんまり好き嫌いがないって聞いたから適当に作っちゃったけど。にんじんは嫌いなんだよね」
瑞希が笑って言った。そんな話をしたのはまだ瑞希を紹介されたばかりの頃で、瑠衣でさえもそう言ったことを忘れていた。それなのによく覚えてるな……と瑞希の記憶力に感心した。
「よく覚えてますね……。洋食は好きです」
悔しいが、どれも美味しそうだった。そのまま店に出せるんじゃないかと思えるほどの見た目だ。今日は成美の客がきているから、たまには俺が作ろうかな。なんて気が向いて手を出したわけではない。普段からちゃんと料理をする人の食事だ。瑠衣はそう思いながら、湯気の立つロールキャベツを眺めた。
「よかった。イタリアンはやめておいた方がいい気がして」
悪気なく言った瑞希に瑠衣は顔をしかめた。せっかく料理の腕は認めたのに、余計なことを言いやがってと面白くない。イタリアンの店のシェフが、自分の受け持ち患者だったという話を聞いていなければ出てこない言葉だから。
最悪……。やっぱり全部聞いてたか。瑠衣はそう思うが、たしかにイタリアンの気分ではなかったから、一応気遣いとして取っておこうと軽く息をついた。
「料理が上手なんですね」
瑠衣は、瑞希の言葉を無視して言った。
「ほとんどなるちゃんが教えてくれたんだよ。出会った頃は全然料理ができなかった」
瑞希は嬉しそうに笑う。過去を思い出して自然と笑みがこぼれてしまったかのように。
「成美さんが? こんなに上達するもんなんですね」
瑞希のことをよく思っていないながらも、コミュニケーションを取る瑠衣を見て、成美も穏やかに微笑む。
「料理はほとんど瑞希がしてくれるのよ。私が作る日はめっきり減ったわ」
「へぇ……。成美さん、お料理上手だからてっきり毎日作ってるんだと思ってました」
瑠衣は驚いたように眉を上げた。家事は協力してやると聞いてはいたが、そこまで率先して瑞希がやっているとは思いもしなかった。それと同時に、もしもつばさと結婚していたらそんなふうに協力し合って家事をするなんて無理だっただろうなと思った。
最初のコメントを投稿しよう!