相談相手

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--  埃1つ落ちていない綺麗に片付けられたダイニングで、瑠衣はぶーっん! っと盛大な音を立てて鼻をかんだ。  何度も何度もティッシュペーパーで擦ったものだから、鼻の頭は真っ赤に色付いていた。 「酷くないですか!? そんな言い方!」  瑠衣が泣き腫らした目で目の前の美女を見る。2人は4人掛けのテーブルを前にして、向かい合って座っていた。 「そうね。宇野先生がそんなことを言う人だったなんて残念だわ。でも、結婚する前にわかってよかったじゃない」  心配そうな顔で瑠衣を慰める美女、柏木(かしわぎ) 成美(なるみ)は、この家の住人である。瑠衣の4つ年上で看護師の先輩だ。  瑠衣が新人として入職した時のプリセプターだった。つまり、教育係である。  当時、成美にとっても初めての教育であり、「私も初めてで緊張してるの」とはにかんで見せた成美の顔を瑠衣は未だに忘れない。  心臓血管外科は重症度が高く、求められる知識も技術も多かった。  当然患者は皆、心臓に疾患を抱えており、何かあれば死に直結する。そんな緊張感が漂う現場の看護師は、気が強かったり冷たい言い方をする者も多かった。  そんな中、成美はいつも優しかった。患者が不利益となる行動を起こせば注意することはもちろんあったが、それでもなぜ瑠衣がそういった行動をしたのかちゃんと話を聞いてくれた。  時には仕事帰りにお茶をしたり、食事をしたり。瑠衣の相談役としてもよく面倒をみてくれた。  それは瑠衣が1人立ちした後も続き、プライベートの相談もするようになった。  しかし、成美が整形外科に異動になってからは連絡の頻度もめっきり減ってしまった。  というのも、当然瑠衣だって当時の成美と同じように今度は教える立場になるし、成美だって別の新人を教育したりもする。  更に委員会があったり、後輩のレポートを見たりと業務時間外でも仕事も多々あった。だから、2人に距離ができてしまうのも当然だった。
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