相談相手

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 そんな2人が再び連絡を取るようになったのは、成美の退職がきっかけだった。  人間関係の構築があまり得意ではない瑠衣は、自分が転職するだなんて考えられなかった。正社員として勤めたからにはずっと同じ場所で働き続けるものだと思っていた。  それは自分だけに限らず、当然同僚だって先輩だって大きな理由がない限りは退職しないだろうと思っていた。成美にその”大きな理由”ができるまでは。  瑠衣にとって成美はずっと憧れだった。美人でスタイルが良くて仕事ができて誰からも信頼されている。なにからなにまで完璧で、成美の短所を探す方が難しい。  いつか成美さんのようになれたら……。そうは思うが、人間嫌いの瑠衣が成美と同じように誰とでも分け隔てなく話せるわけがないし、成美のようにいつでも心に余裕をもって行動できるわけではない。だから瑠衣は早々に諦めるしかなかった。  そんな成美には、容姿も整っていて経済力のある夫がいた。付き合い始めた当初から知っている瑠衣は、夫の話をする時には嬉しそうに顔を綻ばせることを知っていたし、とてもよく尽くす妻だということも知っていた。  とにかく成美はいつだって輝いていて、幸せそうだった。瑠衣は、憧れで大好きな先輩が幸せそうならそれでよかった。  たとえ、自分が同じように幸せな人生を辿れなくとも。自分には自分相応の人生がある。成美のように生まれた時から幸せが約束された人間とは別の生き物なのだと思うようにしていた。  けれど瑠衣は、成美の離婚を機に彼女も自分と同じく苦悩を知る人間だったのだと気付かされることになった。
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