相談相手

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 成美の元夫とは、瑠衣も何度か会ったことがあった。爽やかで物腰柔らかで、とても優しい人だった。人格者の成美が選んだ人間なのだからいい人に決まっている。瑠衣だけではなく、誰もがそう思ったはず。  しかし、その夫は成美を利用した挙句、成美の後輩看護師と不倫していたのだ。付き合っていた期間も、結婚した理由も、結婚生活も大きな嘘で塗り固められていた。  瑠衣は、不倫相手のことをよく知らなかった。同じ病院で働いていても、配属先が違えば廊下ですれ違う程度の間柄は多い。瑠衣にとってはその程度でも、成美にとっては違った。 「瑠衣ちゃんと同じくらい可愛がってる後輩かも」  そんなふうにいつか聞いたこともあった。その時には「ふーん」と流してしまったが、今まで成美にしてもらった恩を思えばその後輩がどれほど大きな裏切りをしたのかくらいはわかる。  淡々と証拠を集めて離婚し、車で2時間はかかる遠いところまで引っ越してしまった。成美の退職が決まった時、慌てて次に会う約束を取り付けた。たくさん傷ついたはずの彼女は、優しい笑顔で「仕事、大変だけど頑張って」と励ましてくれた。  後輩に裏切られた成美にとって、同じく後輩である瑠衣とは距離を置きたがっても不思議ではないのに、彼女はそうしなかった。 「仕事が落ち着いたらまた連絡する」  そう言った通り、ちゃんと瑠衣に連絡をしてきて会う時間を設けてくれたのだった。そこでようやく一連の出来事を聞いた。成美が気持ちの整理がついてからのことだったが、「もう過ぎたことだから」と微笑を浮かべる姿は痛々しかった。  仕事のこともプライベートなことも成美に幾度となく相談してきた瑠衣だったが、成美のことについてそこまで深く話してくれたのは初めてだった。誰にも言えずにいたことを話してくれたのだと思えた。  周りに完璧だと思われている人は、実はとても窮屈で生きづらいんじゃないかと瑠衣は思った。
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