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「ここからは私の想像ですが、いいですか」
「もちろん」
「この喫茶店に入ったとき、感動したんです。ここは外とは別の世界でした。この空間にあるすべてのものが、この世界を創るためにあったんです。それを実現するには途方もない時間が必要で、なにより強いこだわりがある人でないとできないと思いました」
お婆さんは私が話しやすいように、優しく相槌を打ってくれていた。
「だから、この自家製のピーナッツバターにはとてつもないこだわりがあると思ったんです。こんな話は聞いたこともないし、見たこともないけど」
息を吸う。
「このピーナッツバターは、雨上りのときが一番おいしくなるんじゃないですか」
「…」
お婆さんは何も言わなかった。
私は残っていたコーヒーを飲み干す。ぬるくなったコーヒーはそれでもおいしかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いくらですか?」
「代金はいらないわ」
私はかぶりを振った。
「いえ、払わせてください」
「ううん、ダメ。あなたと話すのが楽しくて、自分が納得したものを出せなかったから。だから、代金は受け取れない」
「そんな」
「代わりに、これをあげる」
そう言って手渡されたのは、コーヒーチケットだった。
「いいんですか」
「もちろん。今度は完璧なものを出すから、楽しみにしてて」
お婆さんは幸せそうに笑った。
「…はい!」
外へ出ると、太陽のまぶしい光が私を照らした。
「じゃあ、雨上りにまた来てね」
お婆さんが見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
本当に楽しい時間だった。私は晴れ晴れとした空を見ながら、願う。
「はやく雨が降りますように」っと。
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