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雨上がりにしか店を開けない理由。
単純に雨上りにしか、やりたくないとか。それだったら、わざわざ考えさせたりしないよね。きっと雨上りじゃなきゃダメな理由があるんだ。
お婆さんの方をちらりと見るとカウンターの下から、また何かを取り出した。それは私にも馴染みのある銘柄のコーヒー豆だった。スーパーやコンビニによく売っていて、安価なのにおいしいとSNSで話題にもなったことがある。
安いからって私は結構適当に扱っちゃてるけど、お婆さんは丁寧に保管しているなぁ。パンやコーヒー豆は鮮度が命だから、湿気対策で密閉したり、光の当たらない場所に保管しないといけないんだよね。
その時、ある言葉が引っかかる。
湿気。
たしか、雨上がりには湿気が多くなる。それが目的なら雨上がりに店を開ける理由には納得できるけど、湿気はコーヒー豆やパンの天敵。お婆さんもそれをわかっていて、対策をしているわけだし。わざわざ、湿気の多い雨上がりに店を開ける理由ってなに?
粉状になったコーヒー豆にお湯が注がれ、ゆっくりと滴り落ちていき、コーヒーとなっていく光景を見ながら、他の可能性を模索していた。
何か見落としがあるかもしれない。記憶をたどる。
雨上がり、赤レンガ、ステンドグラス、丸テーブル、観葉植物、小物、絵画、コーヒーカップ。
それとも、別の何かが…。
チーン。
セットしていたトースターのタイマーが鳴った。その音は私にタイムアップを告げているようだった。
お婆さんはトースターからパンを取り出す。
小麦色に焦げ目のついたパンは見ただけで食欲をそそられる。その上に、ひとすくいしたピーナッツバターをそっと乗せて、隣に淹れたてのコーヒーが置かれた。
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