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「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
白い湯気を立てるコーヒーカップを持ち上げて、小さくすする。
「…おいしい」
味は変わらないはずなのに、作る人によってこんなにも変わるなんて。すごいなぁ。
次はパンを手に取る。ピーナッツバターがパンの熱でいい感じに溶けていたので、それをヘラで広げた。
いい匂いだなぁ。匂いにつられて、そのまま頬張る。
最初にパンの耳のパリパリとした食感が出迎え、その後のパンとピーナッツバターが合わさった味は格別だった。やっぱり、パンとピーナッツバターの組み合わせはどれだけ食べても飽きることはないね。
気がつけば、あっという間に食べ終えてしまった。
「とってもおいしかったです」
「そりゃあ良かった」
コーヒーで口を整えてから、ゆっくりと口を開く。
「…わかりました。どうして雨上がりにしか店を開けないのか」
お婆さんは少し目を見開き、私が話すのをじっと待った。
「ピーナッツバターです」
「…理由を聞いてもいいかしら」
「私が最初に気になったのは、この瓶です」
「瓶?」
「はい。コーヒー豆や食パンは市販のもので、ラベルが貼られていたり、銘柄が記載されていました。ですが、これにはなかった」
お婆さんは、また考える素振りを見せた。この人の癖なのかな。
「なるほど。でも、今はラベルが元々ないラベルレスのものもあるって聞いたことがあるんだけど」
そんなことまで知っているんだ。本当にすごい人。
「もちろん、その可能性もありますが、私はもう一つの可能性を考えていました」
私はお婆さんの顔を見た。
「これは自家製のピーナッツバターなんじゃありませんか。自分で作ったものに、銘柄やラベルはいらない」
お婆さんは少し黙ってから、小さく笑った。
「…ええ、ええ、そうね。その通り。このピーナッツバターは私が作っているものなの。でも、それが雨上りにしか店を開けない理由となんの関係があるの?」
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