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数十年前、あるクラスにケイコちゃんっていう転校生がいた。彼女はとても真面目で優しい性格の良い子でね、成績は平均よりちょっと下だったけど先生たちからの評判は上々だった。
ある日、クラスの悪ガキたちが怪談話を作って学校中に広めた。イジメだったんだ。ターゲットはもちろんケイコちゃん。先生によく褒められるから面白くなかったんだろうね。
作られた怪談話はこんな内容だった。
『ケイコと仲良くなるな。仲良くなったら顔を取られるぞ。目を合わせるな。目が合ったら近づいてくるから早く逃げろ。顔を取られても知らないぞ』
今思えばなんであんなにすぐに広まってしまったんだろうね。一年生から六年生のクラスまでたった一日でこの話は誰もが知る怪談になってしまったんだ。もちろん先生たちにも広まっていたけど、よくある子供の遊びだろうと本気にしなかった。イジメなんて小学校で起きるわけがないって当時の先生たちは信じていたんだ。今なら世間にバレたら大炎上だね。
怪談話が広がってケイコちゃんは孤立した。同年代の子たちに避けられるようになったケイコちゃんの心には深い傷ができた。ケイコちゃんの表情は段々と暗くなっていく。一週間もしないうちにニコリとも笑わなくなってしまった。
一ヶ月後、ケイコちゃんは初めて学校を休んだ。母親からの連絡によると風邪らしい。もちろんケイコちゃんを心配する声はない。顔を取る怖いクラスメイトが休みでホッとした子もいたぐらいだ。
深夜、パトカーと救急車のサイレンが住宅街に響いた。子供たちは寝ている時間帯だから、何事かと見に行ったのは大人だけだった。だから子供たちはみんな人伝で事件の内容を知った。
パトカーと救急車が停まった場所はケイコちゃんの家――ではなく、小学校だった。様子を見ていた人たちによると、どうやら子供が倒れていたらしい。
ケイコちゃんだと思ったかい? でも違うんだ。倒れていたのは怪談を作りだした悪ガキの一人だったんだよ。
幸いにもその悪ガキは一命を取り留めた。だけどしきりに顔が……顔が……と呟いていて正気とは言えない状態だったんだ。結局卒業するまでその悪ガキが登校することはなかったんだけど退院できたのかな?
学校は警察の調査のため数日閉鎖され、再開された日にケイコちゃんは普通に登校してきた。ケイコちゃんは相変わらず避けられていた。最悪なことに件の事件があってから先生までもがケイコちゃんを避け始めたんだ。避けられるのは良い方で、一部の先生はまるで化け物かのように扱った。酷いことするよね。
そんな状態が半年ほど続いたある日、ケイコちゃんのクラスにまた転校生がやってきた。名前はケイコちゃんと同じだった。ただ、ケイコちゃんはカタカナだけど、今回やってきた転校生は『恵子』と漢字だったんだ。
怪談話を知らない恵子ちゃんはすぐに同じ名前のケイコちゃんと仲良くなった。クラスメイトは事情を知らない恵子ちゃんに怪談話を教えたけど、彼女は相手にすることなくケイコちゃんと親友と言えるぐらいまで瞬く間に仲良くなったのだ。社交的で正義感が強い子だったよ。
彼女たちの友情はいつまでも続くと思われた。しかし友情の終わりは恵子ちゃんの死によって訪れた。
深夜、再びパトカーと救急車のサイレン。場所は隣町の近くを流れる川。そこで恵子ちゃんの水死体が発見されたのだ。恵子ちゃんの顔は抉られていて判別できない状態になっていたが、名前が書かれた服を着ていたので恵子ちゃんだと判明。その後のDNA鑑定の結果も恵子ちゃんであると断定された。ちなみにこの事件は全国紙に載ったから興味があれば図書館で見るといいよ。
事件のあった翌日、ケイコちゃんは登校してきた。親友が亡くなったのだから悲しんでいるだろうと誰もが考えた。ケイコちゃんは俯いていた。帽子を深く被って表情が見えない。どんな顔をしているのだろうと、興味本位で数人のクラスメイトが覗き込んだ。
悲鳴が上がる。
その顔はケイコちゃんではなく、恵子ちゃんのものであった。
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