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エピローグ この人にせよ
〈明島前所長の端末からコピーさせてもらった報告書に、あなたの名前のファイルがあるの知ってる?〉
〈えっ、本当ですか? 見た記憶が無いですけど……〉
〈私もさっき気がついたの。何度も見返してるはずなのに、不思議だわ〉
〈まさか、過去を変えたから……〉
〈未知の力でファイルが自然に追加されたってこと? そんなことってあるのかしら〉
〈見たんですか? 中身を〉
〈見てないわ。……だってあなたの名前のファイルですもの〉
〈私が所長になってから叔父はあの端末に触れてないはずだけど、いつ追加したんだろう〉
〈とにかく見てみて。そして……もし漏らしても差し支えない内容だったら、教えてくれる?〉
(はい、もちろんそうします)
雛乃との通話を終えた後、私はすぐさま引き出しから端末を取り出し、立ち上げた。
「――あ、本当にあった。これ、見た記憶が無いぞ」
調査記録のファイルの中に『絵梨へ』という名前のフォルダがあり、私は息を呑んだ。
「なんか怖いな……」
フォルダの中味は、テキストだった。
『絵梨へ
もしお前がこの文書に目を通しているのなら、きっと私の後を継いでいるのだろう。
お前の人を引き寄せる不思議な力は、お母さんからよく聞かされていた。わたしが日本でちょうど事業の準備をしていたとき、お前と会う機会があった。
高校受験で悩んでいたお前は「受験日に力が出せたらラッキー、そうじゃなかったらしょうがない」と言った。
その時のお前の目を見た瞬間、なぜか私は「自分に何かあったら、絵梨に後を託そう」と思った。「最後は運、落ちたら不運」という腹の据わった態度に、私はこれから始めようとしている仕事に必要な何かを感じたのだ。
それから半年ほど後にも、不思議なことがあった。
古い知り合い絡みのやや込み入った仕事で、調査中にお前が大人に成長したような女性を見かけたのだ。
気のせいかもしれないし、幻だったかもしれない。
どちらにせよ、私がお前に対して感じた探偵社所長への適性は揺るがない。
お前がこれを見ている時、私はお前の近くにいないかもしれない。しかしもし誰かがお前の資質に疑問を抱いたら、私が背後でこう囁いていると思って欲しい。
「我が探偵社の二代目所長は、初代以上です」と』
〈了〉
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