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新しく採用の男
「あ、コンゴがいない。もしかしてあいつも後をつけていったのかな」
プラント格納庫の前まで来た大神は、通路の端に置き去りにされたダミー装置を見て声を上げた。
「あり得るわね。この先は格納庫しかないからおそらく全員、あそこへ行ったのね」
「こんな急に決戦ですか。しかも超能力を使う苔と。……まいったな」
「相手が何者だろうと、私たちは自分がやるべきことをするだけよ。行きましょ」
私はすっかりお手上げの様子を見せている大神にそう言うと、『格納庫』へと向かった。
「ここね、二人が入っていった場所――そして『緑衣の塔』がある格納庫は」
私は唾を呑み扉の取っ手に手をかけると、思い切って開け放った。
「――えっ?」
私たちの目の前に現れた光景は、椅子と一緒に床に倒れ込んでいる金剛と奥の巨大な『緑衣の塔』、そしてこちらを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべている『フローラ』だった。
「あなたが『フローラ』ね。羽月さんはどこ? おとなしく花菜さんの身体に戻りなさい」
〔おまえたちに従う理由はない。「家庭教師」ならそこにいる、見るがいい〕
『フローラ』の示した方向を見た私は思わず「嘘っ」と叫んでいた。『緑衣の塔』の表面に当たる部分から無数の「蔓」が伸びて雛乃の身体をがんじがらめにしていたのだ。
――こういう状況は、七年後の教授からも雛乃さんからも聞いていない。……ということは、私たちはが関わったことですでに「過去」が変わっている? どうすればいいのだろう。
〔おろかな人間よ。すでにわたしはここにいるお前の仲間よりも強い力と知性を身につけている。逆らえばその分、こうむる被害は大きくなるのだ〕
「――うわっ」
『フローラ』が冷たい笑みをこちらに向けた瞬間、大神が見えない力で吹き飛ばされた。
「ウルフ!」
大型の装置に背中をぶつけた大神は、呻きながら「大丈夫です、ボス……」と言った。
『緑衣の塔』にくくりつけられた雛乃は繊維が色水を吸うようにうっすらと緑色に染まり始め、目からは意思や感情の光が完全に消え失せていた。
――駄目だ、超能力もない私が一人でこのお化け生物に適うわけがない。
〔お前はなかなか頑固な個体のようだな。では脳に直接衝撃を送ってやる。一月ほど待っているがいい。適応可能なら新しい宿主にしてやろう〕
両手をつき出した『フローラ』を見て、私が「ここまでか」と覚悟を決めた。その時だった。ばちんという何かがはじけ飛ぶような音が聞こえたかとおもうと、『緑衣の塔』の台座と繋がっているケーブルが次々と触れてもいないのに火花を散らすのが見えた。同時に『蔓』に縛められた雛乃と『フローラ』がほぼ同時に「うう」ともがき始めるのが見えた。
「な……いったい、なにが?」
私が『緑衣の塔』を維持させている何かに不調があったのだと気づいた瞬間、背後から「驚いたな……俺の「力」がまともに発動するとは」
聞き覚えのある声に思わず振り向いた私は、入り口のところに立っていた人影を見て思わず「テディ?」と叫んでいた。
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