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念動力を乗り切れ
「――羽月調査員!」
七年後よりかなり若い「荻原」は、私たちの存在には目もくれず『緑衣の塔』に縛り付けられている雛乃の元へと向かった。無理もない。「まだ出会っていない」私たちなど七年前のテディから見たら「無断で侵入してきた不審人物」ぐらいでしかないのだ。
「大丈夫ですか」
「あ……荻原さ……大丈夫」
二人のやり取りを聞きながら、どうしよう、危機は脱したけど『フローラ』は……と思っていた私は、何げなく視線をやった先で起こっていた「異変」に思わず目を瞠った。それまで少女の姿をしていた『フローラ』がみるみる形を崩し、球根のような物体になるとそのままずるずると出入り口の方に向かって後ずさり始めたのだ。
「見てウルフ、コンゴ! 宿主の元に戻るつもりだわ!」
私が駆けだそうとした瞬間、突然「うがっ」という金剛の声が聞こえ私たち三人は別の場所へと「瞬間移動」していた。
「……ここは?」
私たちが出現したのは六畳間ほどの広さの洋間で、ベッドの上には目を見開いたまま仰向けに横たわっている『花菜』、その傍らには再び『花菜』の姿に戻った『フローラ』がいた。
「あなた、一体何を……あっ」
私は『フローラ』のすぐ近くに倒れている人影を見て、絶望の叫びを上げた。注射器と共に床に倒れていたのは、計画の指揮者であり頼みの綱の多草教授だった。
――教授までが『フローラ』にやられたんじゃ……完全に失敗だわ!
どうやら『花菜』の部屋に瞬間移動したらしい私は、注射器もない以上もはや超能力者である『フローラ』に抗う術はないと二度目の覚悟を決めた。
「うううう」
ふと、獣の唸り声のような物が聞こえ、振り返った私は思いももよらぬ光景に唖然とした。
なんと、耳と鼻先だけが金色の狼に変わった大神が四つん這いになって唸っているのだった。
――ウルフ、気をつけて。そいつの強さは普通じゃないわ!
私が大神に警戒を促した次の瞬間、狼人間の身体がふわりと持ちあがり天井に押しつけられるのが見えた。
「お……おおーん……ぎゃっ」
みしみしと「上に」押しつけられる狼を見て薄く笑っていたのは、『フローラ』だった。
「やめて『フローラ』! そろそろ花菜さんの身体に戻って!」
私の叫びを疎ましく思ったのか、『フローラ』の目がゆっくりと私の方を向き怒りをぶつけるように緑色に光った。
――もう、おしまいだ!
私が「ごめんなさい叔父さん、みんな」と胸の内で叫んだ、その時だった。突然、大神の身体が落下し床に叩きつけられた。
「ぎゃうん!」
大神が悲鳴を上げた次の瞬間、『フローラ』の目が「誰だお前は」というように見開かれた。『フローラ』の目線を追って振り返った私は、入り口の所にいる小柄な影に釘付けになった。
「まさか、調整中の能力をいきなり実戦で使うとは思いませんでしたな」
「――石さん!」
部屋の入り口に立っていたのは髪がまだ黒い、七年前の石亀だった。
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