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未来の二つの可能性
「コンゴ……飛んだのね」
私は書架の前で力尽きたようにへたり込んでいる金剛に向けて、労うように言った。
「ボス……俺ら失敗しちまったんすかね。過去にまで来て」
半分人間に戻った大神が、私の顔色を盗み見るようにおそるおそる言った。
「わからないわ。でも何かを「変えた」可能性はあると思う。多草教授から聞いた「七年前」の話にはさっきのような立ち回りの話は出てこなかったもの。もしかしたらもうすでに私たちは「過去」を大きく変えてしまったのかもしれない」
私が自分の考え言うと、金剛が顔を上げ「……ってことは、戻ったら七年後の未来――じつまり「今」も変わっちまってるってことですかね?」と私も怖くてあえて考えないようにしている可能性を口にした。
「そうね……変わっていたとしても、最小限で済んでいることを祈るしかないわ」
「嫌ですよボス、戻ってみたら石さんもテディもいなかった、なんてことは」
「やめて。そういう事態は考えないでおきましょ」
――それにしてもこっちの世界の石さんとテディ、それに……雛乃さんは無事なのだろうか?
少なからず「過去」を変えてしまった今、来る前と同じ未来が待っているとは限らないのだ。
「とにかく、鵡川博士が指定した「座標」のところに戻りましょう。あと四十分しかないわ」
私たちは「帰りの便」の発動が近いことを確かめ合うと、「仮の事務所」を出て未来に戻るゲートがあるコンベンションホールへと急ぎ始めた。
※
「わ、やっぱり今日も混んでるわね。鵡川博士による「向こう」の世界に『装置』が据えられていれば後は同じキッズハウスに入るだけでいいらしいけど」
家族連れやカップルでにぎわっているコンベンションホールの入り口で、私は「出てきた」時の騒ぎを思い出し思わず尻込みした。
「とにかく近くまで行きましょう。ようは隙を見て潜り込んじまえばいいんですよね?」
エントランスに足を踏み入れながら、金剛が腹を括ったように言った。
「そうだけど……時間ぴったりに潜りこまないと、ぐずぐずしてたら警備員を呼ばれちゃうわ」
「お前の力で、あのキッズハウスまで飛べないのかよ」
大神が金剛に挑発するような口調で言うと、金剛は大神を睨みながら「できるんだったら、今ここでやってるっての」と憮然とした表情で返した。
「みんな、入場券を買ったから私の後に続いて展示会場に入って」
私は券を配ると、明らかに浮かない顔の部下たちを従えてメイン会場へと進んでいった。
「うわ、き……昨日より人、多くない?」
メイン会場の混み具合は、目的の場所にたどり着くのが一苦労なほどの密度だった。
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