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異様な家
「ひどいっすね。この状態で売り物に大人が三人、潜りこんだら目立つどころの話じゃすまないですよ」
「はあ、確か博士の話だと「座標」はキッズハウスそのもので置かれている場所は関係ないそうだけど……そうだ!」
私突然、脳裏に閃いた考えを披露すべく部下たちに「ちょっとみんな、入り口のところまで戻って」と言った。
「どうしたんです? 呼び戻されるまで、もうあまり時間がありませんよ」
「博士はキッズハウスに入れさえすればおいてある場所は多少ずれても問題ないって言ってたわ。だったら……」
二人は嫌な予感を覚えたのか、怯えの色が浮かんだ顔を見あわせた。
「まずコンゴに近づいてもらって、ロビーまでキッズハウスと一緒に「飛んで」くればいいのよ」
「えっ? ちょっと待ってくださいよボス。そんなデリケートな仕事、務まるわけないじゃないですか」
「やってみなきゃわからないでしょ。無理そうだったら私たちも駆けつけるから、とにかくやるだけやってみて」
「参ったな……」
金剛は「あと十五分だぜ木偶の棒」と急かす大神を睨み付けると、「じゃあまあ、行くだけ行ってきます」と言い置き人混みの中に消えていった。やがて、会場の真ん中あたりから大きな姿がひょいと覗き、見覚えのあるキッズハウスへと近づいていった。
「あいつ、うまくやれんのかなあ」
品定めを装いキッズハウスを眺めたり触ったりしている金剛を見て、大神がぼやきを漏らした。
「コンゴ一人にきついミッションを託すのは気の毒ね。私たちも行きましょう……あれ?」
私は大神に語りかけようとして、はっとした。すぐ隣にいたはずの大神の姿が消え失せていたからだ。
「ウルフ? いったいどこへ……あっ」
金剛の方に目を戻した私は、思わず声を上げていた。なんと金剛の背後に黒い小型犬が近づいたかと思うと、いきなり尻に噛みついたのだ。
「――ぎゃっ」
金剛が叫んだ瞬間、キッズハウスが展示場から消え失せて私の目の前に「部下ごと」出現した。
「二人とも、本当に「運んで」きちゃったの?」
私が驚いて質すと黒い犬が「わん!」と私に向かって吠えた。おそらく「ボス、今です!」と言ったのだろう。
「わかったわ。じゃあ来た時と同じようにコンゴから入って」
私が命じると、金剛は渋い表情を浮かべてキッズハウスの中に身体を押しこんだ。
――早くしないと、人が来ちゃう。
遠くにざわざわと言う不穏なさざめきを聞きながら、私は二番手の大神がするりと潜りこむのを見届けた。
「最後は私ね。うーん、三人入れるといってもやっぱり子供用サイズね。お尻が……」
私がお尻を無理やり押し込むと、私の背中と金剛との間で押しつぶされた子犬が「わぎゃんっ」と悲鳴を上げた。
「――よし、入ったわ!」
私が靴を脱いで足の指で扉を閉めた瞬間、 闇の中に「ぐおおおん」という音が響いた。
――く、苦しい……もう駄目
不気味な振動が十秒ほど続き、私は苦しさのあまり蹴破るようにして扉を開けた。怖れていたようなどよめきは聞こえず、気力を使い果たした私たちは各々不格好な動きで外に出た。
「あ……誰もいない」
「建物もなんだか古びていますね。……ということは」
「戻ってきたのね!」
私はがらんとしたコンベンションホールを見回し、安堵の声を上げた。ほんのわずかな時間、行ってきただけなのに私は無事に戻ってきた「今」に何とも言えぬ懐かしさをおぼえていた。
「どうやら無事にミッションを終えられたようね」
低い唸りを上げる機械の間から姿を現したのは、「少し前」に別れを告げた鵡川博士だった。
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