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何かに姿を変えてくる
「いじめっ子には、きつめのおしおきをしちゃうんだからっ」
キャンディはポケットから巨大な絆創膏を取り出すと、胴体に巻きついている触手に貼り付けた。
「ぎいいいい!」
絆創膏が貼りついた瞬間、触手は石亀を開放し苦し気に地面をのたうち回った。
「どう? 特製塩味絆創膏のお手当てはっ」
「――ぎいっ」
触手が苔の中に引っ込むと、キャンディ――エプロンドレスの石亀はばったりと力尽きたように倒れ込んだ。
「ふふっ、面目ないですボス。こんなところで「奥の手」を使ってしまうとは」
「いいのよ石さん。まずは自分を守る事。後は残った私たちに任せて」
私は顔面だけ元に戻った石亀を優しく諭すと、再び『緑衣の塔』の方を向いた。
――石さん……探偵の仕事で能力が高められて、秘めていた性癖が表に出て来てしまったのね。自分の性癖には気づけたかもしれないけど、果たしてこれで良かったのかしら。
私は七年という時間が石亀にもたらした、独自の変化をしみじみと噛みしめた。
「ボス、私が後ろにくっついていきますから、早くその『なんとかカブ』を!」
古森に後押しされた私が、尻込みしたい気持ちを堪え再び『死滅株』を取り出した、その直後だった。
「――きゃああっ」
いきなり背後で古森の悲鳴が上がり、振り向いた私は目の前に異変に絶句した。
「ヒッキ!」
どこから現れたのか、四人の緑色をした少女――『フローラ』が古森の動きを封じるように取り囲んでいたのだった。
「や、やめて……来ないで」
四方から迫る『フローラ』に古森はなぜか丁寧に「お願い」していたが、そのまま抱きつかれかねない距離にまで近づいた瞬間、豹変した。
「やめてって言ってるのに!」
古森が眼鏡を外した瞬間、その下の目が金色に輝き四人の『フローラ』が一斉に燃え上がった。
「ぎゃ――っ」
人間の姿をしていた『フローラ』たちは一瞬で炭と化し、その場にぼろぼろと崩れ落ちた。
「はあ、はあ」
古森が荒い息を吐きながら眼鏡を元に戻すと、一体の『フローラ』の焼け残った先端部がぐにゃぐにゃと動き「ある生物」の形になった。
「ヒッキ、見ちゃ駄目!」
「か!」
感能力とやらで心を読んだのか、最も苦手な生物を前にした古森はその場に固まった。
「かえりゅううう……」
白目を剥いてひっくり返った古森に駆け寄った私は、姑息な攻撃を寄越した敵を思いきり睨み付けた。
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