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終わりたい戦い
残った部分が逃げるようにひゅっと消えるのを見届けた私は荻原に「二人になっちゃたけど、続行するわよ」と言った。
「了解です、ボス」
私は頷くと、『死霊株』をポケットに忍ばせたまま『緑衣の塔』に向かって歩き始めた。
緑に覆われた平面上には、人が隠れられる大きさの突起が点在していた。おそらく、このフロアが普通に使われていた時の設備の一部だろう。『サイコネフィス』が壁を吹き飛ばし時、残った調度や機械が苔に包まれ障害物のようになったのだ。
「なんだか静かね、テディ。もう攻撃の方は手詰まりだってことかしら」
「そんなこともないでしょう。……ほら、「塔」の根元から何か出て来ましたよ」
私が驚いて荻原が目で示した方を見ると、たしかに緑色の突起らしきものが地面から芽のように伸びて人の形になるのが見えた。やがて緑色の物質が剥げ落ち、その下から二つの影が私たちを出迎えるように姿を現した。
「あなたは……」
現れた「二人」のうち片方は『花菜』だった。目が薄く緑色を帯びているのはまだ『サイコネフィス』に支配されているからだろうと私は思った。そして『花菜』の傍らには見たことのない若い男性が立っていた。
〔紹介するわ。助手の稻生悟さん。……もっとも今は九割以上『P-77』だけど〕
「花菜」から紹介を受けた男性――特殊蛋白質『P-77』に支配された「元」助手は前に進み出ると〔私は新しい「種」……旧人類に邪魔されるわけにはいかない〕と言い放った。
「――ボス、こいつの相手は俺がします」
荻原が一歩前に出ると『P-77』、つまり『狂戦士』の手が緑の鞭と大鎌に変化した。
〔狂戦士に『サイコネフィス』の超能力が備わった私に、勝てるものなどいない〕
『狂戦士』は荻原の方に突進すると、腕の大鎌を繰り出した。荻原が横に飛んで逃げると、大鎌は伸縮する「蔓」ごと伸びて荻原の動きを追った。
「……ちっ、しつこいぜ」
荻原が紙一重の所でかわすと、荻原のつけているサスペンダーの片方が切断されぶら下がった。
「……おっと。ひでえなあ。残りの方は勘弁してくれよ。ご婦人もいるのでね」
荻原は「弾避け」の陰に身を隠しながら、『狂戦士』の攻撃を必死にかわし続けた。恐らく逃げ回っていると見せかけて反撃の機会をうかがっているのだろう。
「――今だ!」
大鎌の攻撃をバックステップで逃れた荻原は、光る球体を溜めた両手を『狂戦士』に向けてつき出した。
――『エレクトリック・スナイプ』だわ!
荻原の技の一つに、手に溜めた電気を球状にして放つという物がある。巨大な物になると装甲車を破壊するほどの力があるのだ。
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