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時間差計画の回収
「ボスに隠し事をするのは心苦しかったのですが、敵を欺くにはやむを得なかったのです」
私は愕然とした。探偵社の所長ともあろうものが、今の今まで何も知らずにいたなんて。
「私とテディに羽月元調査員から連絡があったのです。「二代目所長を何が何でも守りたいのなら、私の計画に協力して欲しい」と」
「嘘……二人に雛乃さんが?」
「所長さん、辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい。あなた達が七年前のこの場所で『花菜』に『抑制液』を打ち込んだと聞いて、もしかしたらその効果が残っているかもしれないと思ったの。残っていれば同じ物に反応するはずだと思って、そこに賭けたわけ」
「じゃあ、少しは過去に影響を及ぼせたってことですか」
「そうなるわね。それがなかったら勝てていなかったかもしれない」
私は愕然とした。成功したのは嬉しいが、ほとんど三人のチームプレーによるものだ。
「私は……『P-77』から恨みを買っているなんて思ってもいませんでした。私が所長であり続ける限り、これからもきっとこういうことが起こるんでしょうね」
「どんな仕事だってあると思うわ。こんないい方はプレッシャーになるかもしれないけど、『絶滅探偵社』はあなた一人が迷ったぐらいでどうこうなるような組織じゃないわ」
「私一人が……」
「そう。家族だって誰か一人が落ち込んでも、バラバラにはならないでしょう?」
「家族……」
「明島先生があなたを所長に指名したのは、あなたに組織を繋ぐ力があると思ったからよ」
「そんな……私なんて「ただいるだけ」なのに」
「ふふっ、それがどれだけ大きいことか、まずはあなた自身が自覚しなくちゃね」
私は何もない場所にぽんと放り出されたような気分になった。でも、一つだけわかったことがある。それはまだまだ、学ばなければならないことがたくさんあるということだ。
――そうなんだ。所長っぽくなってきたと言われて喜んでるようじゃ、だめなんだ。
「さあ、事件は解決したんだし、胸を張って帰りましょ。そして新しい依頼が来たらこう言うの「私が二代目所長です」って」
「――はいっ」
私は周りに集まってきた部下たちを見ながら、熱い物がこみ上げてくるのを感じていた。
雛乃さんの言う通りだ。胸を張って帰ろう。少なくとも今『絶滅探偵社二代目所長』を名乗れる人物は、私しかいないのだから。
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