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緑魔は死んだ
「もう何も「聞こえ」ないし「見え」ないわ。たぶんあなたの中の『サイコネフィス』は『緑衣の塔』の死滅と同時に滅んで分解されたのね」
雛乃は閉じていた目を開くと、私を見てほっとしたように言った。
「あと一時間で『フローラ』が言った三十三時間だけど、もう怯えなくてもいいのね」
安堵で全身から力が一気に抜け、私は椅子からずりおちそうになった。
前回、そして『ヴィジョン』の中で訪れた時と異なり、古民家カフェの空気は柔らかな優しさに満ちた物になっていた。
――たぶん、今までは警戒と緊張で身も心も固くなっていたんだろうな。
「だけどむずかしいですね。調査のような仕事を、誰からも恨みを買わずに全うするって言うのは」
「そうかもしれないわね。でも何かを隠そうとしたり、他者を陥れようとしたりする人間はそれが暴かれた途端「あいつのせいだ」って思わずにはいられないんじゃないかしら」
「こっちは依頼された通り、一生懸命調査しているだけなのになあ……」
「うふふ、あなたの会社は一生懸命すぎて、悪を「倒す」ところまでやってしまうものね。仕方ないわ」
「それは……できれば他の誰かにやって欲しいです」
私が思わず愚痴を漏らすと、雛乃は「諦めるのね。何といっても明島――絶滅探偵社は世にも稀な『超能力探偵社』なんですもの」と言った。
「ああ、やっぱりうちってそういう運命なのかなあ」
何が嬉しいのかにこにこ顔の雛乃を前に、私は部下の前では吐き出せない泣き言を並べ続けた。
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