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我が愛しき惣菜たちよ
「おおっ、この油淋鶏うまいですねえ。衣がまた進化したんじゃないですか、ボス」
つつましく始まった慰労パーティーで、真っ先に声を上げたのは金剛だった。
「えっ、そう? 特に新しく工夫してはいないんだけど」
「え、そうすか? いやでもどんどん腕が上がってる気がするんですけどねえ」
「旨いのは当たり前だろ。お前の褒め方が下手なんだよ」
「なんだとワン公。あっという間に二本もスペアリブ食いやがって。お前なんざ骨で充分なんだよ」
「うるせえな木偶の棒。せっかくの慰労会にふっかけてくんな」
「もうやめて。……本当に毎回、やりあうんだから」
いつもの小競り合いをたしなめつつ、私が空いた皿を片付けようとしたその時だった。
「――あっ、ここが噂の探偵社ね。所長さん、こんにちは」
ふいに扉が開いて顔を見せたのは何と、石亀の娘の翠だった。
「あら、翠さん。よくここがわかったわね」
「結構、探しちゃいました。だってネットに載ってないんですもの」
「翠、お前も大人なんだから訪問するときは事前に連絡を……」
石亀が驚いた顔のまま小言を口にすると、翠は「わあいい匂い。これが話に聞く『お惣菜パーティー』ね?」と言ってテーブルの上の肉じゃがを覗きこんだ。
「うーんいい匂い……汐田さん、ちょっと頂いていい?」
翠は私の方を見ると、箸を取って崩した肉じゃがを口に放り込んだ。
「おい、これは所長が職員の慰労のために……」
「いいのよ石さん。……どう?お味は」
「――わ、おいしいっ。これ、うちのお母さんとおんなじ味っ」
翠は丸い目を大きく見開くと「すごーい、汐田さん」と言った。
「うふふ、所長として非力な分、差し入れでごまかしてるって感じかしら」
「えっ、絶対これ父のやる気に繋がりますよ。こういうのが力になるんです……なんて、生意気言ってごめんなさい」
「ううん、そう言ってもらえると嬉しいわ。調査力じゃうちはよその探偵社に到底適わないけど……」
私は少しだけ謙遜してみせた後、お惣菜を頬張る部下たちの顔を見回し息を吸った。
「――超能力と調味力なら、探偵以上なの」
私は自信たっぷりに言うと、肉じゃがに目を細めている翠に片目をつぶってみせた。
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