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「いやー、マジで感謝!」  チケットの抽選に落選した椎名は、もう何度目になるかわからない台詞を放課後にも口にした。校門を出て歩きながら、「よくやった!」などと言って僕の肩をぽんぽんと叩く。やめろよなんて言いながら、僕もまんざらでもない気分になる。  僕らは各々二枚ずつチケットを申し込んでいた。これは五月の申し込みの時点で、椎名と話し合って決めたことだった。当選の際は二枚同時に当選する。二人で二枚ずつ申し込んで、片方が外れても片方が当たれば、余りを譲ってもらえばいい。その戦略が功を奏した。勿論、僕は余った一枚を椎名に譲る。  初夏の空気はカラッと乾いて、雲一つない青空が眩しい。 「椎名は、夏休みどっか行くの」  もうすぐ夏休みだ。少々浮つく僕の質問に、彼女は答えた。 「別に、何も考えてないよ。今年ぐらい勉強しなきゃ」  思わず「うっ」と僕は呻く。苦い表情を見て、椎名がけらけらと笑った。 「勉強しないと、高校行けないよ?」  彼女が目標にしている高校は、県下で一、二を争う進学校だった。今の成績を維持できれば、十分に射程圏内らしい。それを聞いたとき、僕は素直に感心した。僕もそれなりに頑張ってはいるが、目指すのはそれよりワンランク下の高校だったからだ。現状ならば狙えるが、これから周りも部活を引退し成績を上げにかかる。油断して怠けるなよと、先日の面談で担任からは釘をさされたばかりだった。危機感の薄さを見抜かれていて、僕は素直にはいと言うしかなかった。 「なら、私がコーチングしてあげよう」 「コーチング?」  胸を張って両腕を組み、椎名はうんうんと頷く。 「津守はきっとサボるから、私が管理してあげる」  うへえと僕は口をへの字に曲げた。 「やだよ、監視されるなんて」 「監視じゃない、管理。コーチング」  その場で早速、今日の夜八時にオンラインで勉強会をすることが決定した。強く出られたら嫌と言えない僕に、椎名はスマホでも使える便利な通話アプリを教える。ついでに、彼女のアカウントも。 「じゃ、帰ったらよろしく」  別れ道でひらひら手を振って、彼女は颯爽と去っていった。椎名と距離を置くどころか、むしろ日毎に縮まっている。「全く……」なんて言いつつも、僕は少しわくわくしながら帰路を急ぐのだった。
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