5

1/2
前へ
/15ページ
次へ

5

 椎名は早速、翌日には一つのホームページを調べてきた。学校で堂々とスマホを使うと没収されるから、放課後の公園のベンチで相談をする。椎名のスマホの画面には、迷子のペットの写真が上から下へずらりと並んでいた。目撃情報を求める飼い主や、ペットを保護した人たちが情報を交換するページだ。こんなにも誰かのペットが行方不明になっているとは想像したこともなかった。 「全国にこんなにいるんだ」 「驚きだよね」  僕らの住む県で彼女が検索をかけると、百三十件もヒットした。更に市内、町内へと範囲を狭めていく。僕らは一件の捜索願に目星をつけた。 「へえ、フェレット飼ってる人がいるんだ」  椎名は実物を見たことがないと言い、それは僕も同じだった。五日前に、この公園を含む町内の家から、白いフェレットがいなくなったらしい。写真には、ペット用のハンモックから興味津々の顔でカメラを見つめる可愛らしいフェレットが写っている。さぞ飼い主は心配していることだろう。 「よし、この子を探そう」  椎名が器用にパチンと指を鳴らした。あまりに不純な動機により、僕らはフェレットを探すことにした。 「でも、どうやって」 「うーん。飼い主に聞きに行くわけにはいかないかな」 「それは、ちょっと難しいんじゃない」  思案したけど、目撃したわけでもないのに、悲しんでいる飼い主にペットについて突然尋ねるのは良心がとがめる。捜索に至る全うな理由があればいいのだが、謝礼目当てだなんて口が裂けても言えない。あそこで見かけて、なんて嘘を吐くのも気が引ける。 「……よし」  僕と違い、椎名は何かを思いついたらしい。勢いよく立ち上がると、僕を置いてすたすたと歩き出した。  慌ててついて行くと、彼女はブランコの周りに群がっている子どもたちに声を掛けた。 「おーい、ちょっとちょっと!」  既に顔見知りになっている小学三、四年生ぐらいの彼らは、彼女の呼びかけにわらわらと集まってくる。あっという間に七、八人の人だかりができた。 「みんなさ、暇だったら探偵ごっこしない?」  探偵ごっこ? 子どもたちの半分が目を輝かせ、半分が不思議そうに首をひねる。まさかと思ったが、そのまさかだった。 「このフェレットちゃんに見覚えのある子、いる?」  なんてこった。謝礼目当てに、子どもたちを使って人海戦術を行おうとしている。けれど、他に案のない僕は、呆気に取られてそれを見ているしかない。  子どもたちは椎名のスマホを覗き込み、口々に可愛いを連呼する。迷子になっていることを知り、可哀想と同情する優しい子までいるが、見覚えのある子はいなかった。 「迷子なんだって。おうちに帰してあげるため、これから捜索隊を結成する!」  椎名が高々と宣言し、子どもたちが歓声を上げた。 「おれ、隊長やりたい!」  右手を上げた子を、椎名はびしりと指さし宣言した。 「よし、まさくんを隊長に任命しよう!」 「ほうしゅうは?」 「うまい棒のコンポタ味! このフェレットちゃんはきっと近くにいるから、みんな、遠くに行ったら駄目だよ」  子どもたちはわいわい騒ぎながら、楽しそうに作戦を立て始めた。親に聞いてみると言い出す子もいる。 「さて」椎名は突っ立っている僕を振り向く。「なんて顔してんの、津守」 「呆れてるんだよ」 「失敬な。ただの情報収集の手段だよ」  そう言って、彼女は腰に両手を当てて満足げな顔をした。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加