新聞

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 東京湾にて、鮫が見つかったらしい。  珍しいことではあるが、殊更読者の興味を引いたのは、一緒に捕まった蛸と海老が仲良さそうに共存していたことであった。  まるで仲間であるかのように、寄り添って生活しているのだとか。 『鮫をまるで海の乱暴者のような言い方をする人が多いのには辟易させられます。鮫とて生きる為に行動しているだけで捕食活動はどの生き物もしていることです。偏見を外して鮫を見てみて下さい。なんと美しい生き物ではありませんか。鮫こそ海中の貴婦人なのです……』  海洋学者は滔々(とうとう)と鮫の魅力を語る。  読みながら写真を見ると、確かに、鮫は美しい生き物である。まじまじと見る機会などなかったから、気付かなかったのだろう。  麻上圭は、夢中になりそうになって、慌てて視線を時計に向けた。危うく時間を忘れるところであった。  新聞を閉じて、ポケットから手の平に収まる大きさの鏡を取り出し、頭から胸元まで映す。  乱れのない漆黒の髪、切れ長な一重の目、形の良い鼻梁、薄い唇。整いすぎて厭味なほどの美貌。  いつまで経っても少女のような容姿に、圭は溜息を吐いた。
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