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扉が鳴った。圭が返事をすると、応えるかのように扉が開く。
「お待たせしたね」
待ち人が現れた。T大学講師の相楽美嗣である。
少年時代、誘拐されそうになった妹を奪い返した英雄であるが、犯人に逆恨みされ、硫酸を浴びせられた過去があった。
硫酸に焼かれた顔は酷いケロイドに覆われ、存在しない左目には眼帯。火傷跡が特別酷いらしく、室内でも山高帽を、左手には手袋を嵌めたままである。
異形とも言われる姿ながら、漂う品格に、その眼に溢れる知性に、穏やかな口調に、低い魅力的な声音に、誰もが魅了されるのである。
「いいえ。
あら? 中里さんも?」
相良の背後には、新聞記者の中里勇一郎がいた。いつも通りのぼさぼさ頭に袴姿である。
「ちょっと用事があってな。俺のことは気にしなくていいから」
言いながら、さっさと離れた場所に座り込んでしまった。
「御用がおありでしたら、お先にどうぞ」
「いいからいいから、気にしない気にしない」
「まぁ、中里さんの要件は後でも良いから、こちらはこちらで話を進めさせてもらおうか。
実は麻上君にお願いがあってね。
こちらに向いて貰えないだろうか」
言われるままに顔を向けると、相良の優しい笑顔が見えた。
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