嫁ぎ先からの判決

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嫁ぎ先からの判決

 二人で外を出ると、先ほどはどんよりと雲っていた天気から、青空がひょっこりと顔を出していて、尚且つ心地よい風が吹いて気持ちが良かった。 「風が気持ち良いですね。着物、暑いですよね」 「え?あ、そうですね」  私から声をかけた事にお饅頭さんは驚いたのか、少し反応が遅く感じたが、何事も無かったかのようにまたニコニコと笑顔を私に向ける。  この人が本当に離婚歴10回?その度に子供をもうける?  なんだかこの内容に疑ってしまう。そもそも下請けから聞いた噂であって、信憑性もない。なんならこの人柄で女性に騙されて逃げられてるとか?子供はもしかしたら、顔に似合わず性欲が暴走列車かもしれないが……。  お饅頭さんの半歩後ろを下がってモンモンと歩いていたら、 「Are you currently happy with your life?《きみは いま しあわせですか?》」  お饅頭さんが突然ゆっくりと英語で話しかけてきた。なるほど!!きっとこれはお見合いという名の桜小路グループの家系の嫁になる試験が施されるのね?超一流な大企業の親戚ともなると、馬鹿は許されないってことか。   「I'm not so sure about that。《どうだろう よくわからない》」 「え?」「え?」  思わず英語で答えた私にお饅頭さんはビックリしている。長女が幼い頃に習い始めた英会話のレッスンが厳しく有名な所であり、長女がサボりたくて私に代わりに行くようにと命じた英会話は、気付けば私の得意なジャンルになっていった。  英会話の先生が、あんな生意気で英語を覚える気もない長女より、真面目でキチンと勉強してくれる私の方が教え甲斐があるわと月謝を払い続ける継母には内緒で、気付けば15年も通って身に付いた自分のリスニング力と、そしてつい本音の答えに私もお饅頭さんと同じく汗をダラダラかいてしまった。  つい英語で聞かれるとキャサリンがガムをクチャクチャ噛むキャラクターが私に憑依でもしたんじゃないかと思うほど、「Hi!お饅頭、今日の餡の調子はどう?」と言い兼ねない。英会話の先生も「花はイタコのタイプね?恐山でも行ったことあるの?」と、どんな褒め言葉だよと先生に突っ込んだ事を思い出した。 「きっとこれから予期せぬ以上の幸せが舞い込んで来ると思いますよ。」  今度はお饅頭さんが日本語でニコニコと、眼鏡が曇りながら私に微笑んでくれた。  残念ながら、どんなに優しそうでもニコニコと笑顔をくれても私はきっとお饅頭さんを愛せないだろう。父親くらいの年齢に心がときめかないのは失礼なことなのかは分からない。世の中には干支何周しちゃってる?フルマラソンだねと思う年の差が愛し合っている夫婦もいる筈なのに。  今いる場所から逃げたいだけですと言ったら、お饅頭さんは離婚歴11回になってしまうのかな。離婚歴はイレブンですと言ったら、ちょっとしたバズりになりますねと危うく英語で言いそうになったが、高橋さんと同じく、それは止めとけとダイエットコーラを飲みながら頭の中でキャサリンが私にストップをかけてきたので、踏みとどまる事が出来た。 thank you so much. キャサリン  上手くいったと思われたのか、気付けば継母達はとっくに居なくなっていた。
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