お久しぶりの皮肉

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お久しぶりの皮肉

「じゃあ仕事に行くよ。何かあったら直ぐに連絡を」  広すぎる玄関でいつものようにいってらっしゃいのキスをして、自分も身体の傷を治すクリニックに行く準備をする。  桜小路グループの企業の一つでもある美容整形外科のあるクリニックで、一年以上待たないと予約が取れない筈なのに電話一つで受診をしてもらって数ヶ月。  正直どんなに最高で最新の施術をしても、私の身体は綺麗に戻ることはない。しかし腫れ上がって皮膚が盛り上がって出来たケロイドは手術で取り除き、目に見える傷は八割取れてきてる。  サラシを巻いて生活していた身体から一辺、UN●QLOで買ったシームレスブラを着用した姿をたまたま脱衣場で蒼真さんと鉢合わせ、蒼真さんが額に手を置いて失神寸前のところで踏みとどまり、 「な、なんだその汚れのない聖女のような清潔感のある下着姿は。私の目の前に今天女が舞い降りたかと……」  どうやら日本のブランド代表UN●QLOのデザインを見たことがない王子にとって、私のエアリズムの下着は身も心も崩れ落ちる程の衝撃らしい。  だがしかし、私のブラの色はベージュでパンツは黒だぜ!上下バラバラの下着姿を見られた私の方が、恥ずかしさで失神しそうになったのは黙っておいたよ。  ウォークインクローゼットの部屋に入り、クリニックに着ていく洋服を選ぶ。全て蒼真さんが私の誕生日に買ってきたものだが、どれもこれも私の知ってる値段のレベルは一つも無いし、タグが全てハイブランドの名前しかない。  幅広のチェックの服といったらコレ!という茶色と白とグレーが使用している上衣を選び、デニムですら触ったことのない質感だ。  綺麗に並べられたバッグもジュエリーも、使いこなすのに来世も必要な年月が必要かもしれない。恐れ多いのに使用しないと蒼真さんが大理石の床でシクシクとガチで泣いてしまうので、有り難く私の身体に身に付けさせてもらっている。  こんな自分の人生が急上昇でいいのだろうか。  本当は多忙過ぎて自宅に帰ってくることも難しいだろう蒼真さんが、必ず私の為に朝と夜は顔を見るのを日課にしてくれているらしい。  朝も昼も夜も、365日死ねとゴミと罵倒され、虫けら扱いされて生きてきた私にとって幸せに慣れていないから。 「やっぱりお前無理」って言われたら、 「オッケーわかってたー」つって返せる自信があるのも否めない。だって奴隷からのいきなりプリンセスってさ。私の前世はきっと沢山人助けしたんだね! 【準備はいいですか?】  そう太さんからLINEが入って慌てて部屋から飛び出し、いつものハンターのような出で立ちの運転手とそう太さんとでクリニックに向かう。 「受付に伝えてくるのでお待ち下さいね」  自分で出来るのに申し訳ないなぁと思いながら、クリニックの綺麗な外観の前で携帯を触って立ってそう太さんを待っていたら、いつも聞いていたある声が耳に入った。 「あら~偶然ねゴキブリちゃん」 「は?何でゴミが?」
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