年月経っても詰み

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……花ちゃんこっち。  さっきのタバコを押し付けられ、自室に戻ろうと廊下を歩いていたら、家政婦の高橋さんがあの悪女三人がほぼ入らない納戸の扉から、小さな声で手招きする。 「……高橋さん。バレたらまずいよ」  そう言いながらも左右誰も居ない事を確認して、スッと高橋さんがいる納戸の部屋に入る。 「またこんな……お薬つけるからね」 「……っうぅ」  高橋さんが火傷に効く軟膏をたっぷり塗ってくれるが、触れられるとさっきのタバコの跡が痛くて思わず声が漏れる。高橋さんは此処で働いて10年以上になる為、小さい頃から虐待されている私をずっと知っているということになる。  私を構うと直ぐに悪女三人に辞めさせられるので、氏家家(うじいえけ)は私の虐待は黙認のルールになっている。 「お父様が帰ってきたら少しは落ち着くといいけど」 「ムリムリ。パパが帰って来たって何も変わらないし、パパも私の事嫌いだしね」  日本のみならず、海外まで手を広げた父親は今はほとんど日本に帰らず海外暮らし。時折悪女三人が、パパに会いに自宅を留守にする時だけが私の唯一の自由時間だったのに、その三人が最近パパの所に行かなくてこうして毎日毎日、私の虐めが止められない止まらないスナック菓子状態。  そろそろうす塩味の涙を流す感覚までも忘れてきている。 「……もう見てられないよ」 「でも高橋さんのお陰で背中の傷、ここまでで済むし。大丈夫だよ。私も来月で20歳になるから、そしたら此処を出て一人で生きていくからさ」 「……ううう」 「いや、高橋さん泣く声大きいから止めて。どうどうどう」  長いエプロンで顔を覆い被せ、涙を拭いている高橋さん。なんならちょっと鼻もかんでるけどそのエプロンで料理するんだよね?と、晩御飯が心配になる。  よいしょと服を直し、泣いてる高橋さんにお礼を言って納戸の扉をこっそり開け、いつものように左右確認。ここは横断歩道か!と突っ込みたくなる程、いつどこで氏家の暴走族が突っ込んでくるかわからないから。  巷で人気の暴走族のカテゴリーは、ここにあるよーって。見においでーって。 でもバッドエンドしかないけどねーって。  救いの王子様なんて来やしない。  単車に乗った総長なんて要る筈ない。  私の世界に幸せなんて見たことない。  背中の火傷凄いんだ。 痛々しいなんて生易しい。炎症起こして死ぬ可能性だってあるのに、誰もかれも私が死ぬことしか望んでない。  高橋さんだけは……きっと泣いてくれる。  その時私はありがとうって空から高橋さんに向けて大声で叫ぶから。  家にある金目の物盗んでメルカリに売ってるの黙ってるからさ。だから、私が死んだら泣いてよね。
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