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「あ、あ、あの~まじめまして氏家と、も、申すます」
パパの第一声、まさかの「噛み」に、ニコニコしていたお饅頭さんは気にもしないかと思いきや、眉間にシワを寄せながら目を細め、パパの顔をジロッと睨む。その視線と目が合ったパパは、お饅頭さんと同じくダラダラと汗をかきはじめた。
テーブルの真ん中に座っていた仲人さんも同じく冷や汗をかいており、私以外の人達がまるでサウナの中にいる状態。
鹿威しもなんだか心なしか「ととのい中……」カッコーン!と力無い音が響き渡った気がした。
「お名前を聞いても宜しいですか?」
お饅頭さんが私に鋭い顔から最初のニコニコ笑顔に戻り、優しく丁寧なトーンで私の名前を聞いてくる。
「あ……ご挨拶が遅れて申し訳ありません。氏家花と申します。宜しくお願い致します」
「はじめまして花さん、僕は桜小路と申します。かなり早いとは思いますが、良かったらこの庭園を二人で歩きませんか?」
「それがいいですな!早速年寄りは退散しましょうそうしましょう!!」
この場から逃げたいパパの心境が、まるで小学生の頃に聞いたことのあるフレーズで発してしまった言葉に、流石に隣にいるパパに「ちょっと……」と、思わずパパの顔を見ると。
お前は黙ってろ、へまするな、失敗したら家は無いものだと思え、そもそもここまで育てた恩を忘れたか?
無言なのに伝わる言葉。冷たい目で私の顔を見て、動いたか動いていたかの口の動きで読み取れてしまった。
こんな場所でも自分は愛されていない事を実感したくない。そもそもこのお見合いが成功しても失敗しても私の事は追い出すでしょ?
「桜小路さん、是非お庭の案内をお願いします」
「あ、はい。では行きましょうか」
この会話を何処で聞いていたのか、先ほどのホテルマンが庭に出る二人の靴をサッと持ってきて、お饅頭さんがまたしても重たい袴をよいしょと動きにくそうに靴を履く。汗がまたしても先ほどよりダラダラかいているが、私が庭に出る着物用の草履を履くとお饅頭さんが手を差し伸べてくれて、その手のうえにソッと乗せる。
お饅頭さんは一瞬だけビックリした顔をしており、またしても遠くで覗いている継母と長女のゲラゲラした笑い声とキッモー!!と、低能な声が小さく聞こえてくる。
そのまま手を引いてエスコートをしてくれるかと思いきや、汗で湿ったお饅頭さんの柔らかい手は私が庭に出る二歩程度くらいで終わり、正直身を捧げる覚悟を決めていた私は肩透かしを喰らった気分になった。
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