剥がせない絆

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「佐倉さん……すみません」  松木はすっかり意気消沈していた。ガックリと肩を落とし、事務所を出るなり謝ってきた。 「謝るのは俺のほうだ。悪かったな。入る組を間違えた」  松木は悔しそうに唇を噛み締めている。 「別の組に移籍することはできないんですか」 「できないだろうね」  背後から楽しげな声が聞こえて振り返ると、諏訪野という若い組員がいた。髪を白に脱色し、上下グッチのジャージ姿。見た目は女好きのする優男だが、ホストとして働きながらヤクを売り、客を風俗に沈めて稼ぐなかなかの悪党だ。 「あんたら、姉さんの好みドンピシャだもん。さっき全裸にさせられたんじゃないの? そんでマンションに来なさいて言われなかった? 言われたんなら逃げられないよ」  事務所は銀座の大通りを入った路地にあり、昔ながらの喫茶店やセレクトショップが立ち並ぶ。東京に来て三日目だが、まだ銀座の歩き方はわからない。佐倉は銀座線沿いの街にアパートを借り、松木と二人で暮らしている。 「あんたも加納さんと寝たのか」  佐倉が聞く。「可愛がってあげる」の意味をはっきりさせたかった。  諏訪野は肩をすくめ、「ノーコメント」と笑った。  ヤクを売るために男色と寝たことは何度かあった。男とのやり方は心得ているが、可愛い後輩を巻き込むのは嫌だ。あんな枯れ腐った男に松木が勃起するとは思えないし、もたつけば罵声を浴びせられるのが目に見えている。 「二人で来いと言われたんだが、俺だけで行くのはまずいか?」 「そしたら後日、そっちの彼だけ呼ばれるだろうね」  それはダメだ。二人でなら、松木ができなくても自分がフォローしてやれる。  佐倉は隣で青ざめている男の背中をトンと叩いた。 「俺に任せろ。お前は何もしなくていい」  不安はあったが、松木をこの組に引き入れてしまった責任は自分にある。根性でどうにかするしかない。
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