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序章Ⅰ 邂逅
Ⅰ
手足が震える。呼吸が乱れる。喉が乾く。全身から汗が噴き出す。
剣の柄を握るどころか、その場に立っていることすらままならない。
目の前にあるものの圧倒的な威圧。気を抜けば、己の所在も意識も全てが消し飛んでしまいそうな程に強烈に魂を揺さぶる、強大で猛烈な存在。
これが、神。
世界を創造した原初のもの。
大地、海、空気、木々、岩、動物、人間に至るまで、あらゆるものをこの全能なる存在が創り出した。
闇を纏い、夜を纏い、揺蕩う半透明のヴェール。青白く輝く陶器のような肌。深淵を映した眼。
少年はしかと見る。
かつて高貴なるその姿を目にした人間は、遥か昔、数千年前の始まりの巡礼者のみだと誰かが言っていた。
はなから間違っていたのだ。田舎の平凡な子供が、人類の命運を背負うなど。神に挑み、打ち勝とうなど。
何もかもが間違いだった。薄っぺらな使命感など捨て去り、旅を放棄していれば、このような惨状を引き起こさずに済んだ。共に歩んだ仲間達の命が、無惨に奪われゆく様を目にすることもなかった。
魂を喪い、抜け殻となった幾つもの肢体が、少年の背後にゴミのように無造作に転がっている。ある者は心臓を撃ち抜かれ、ある者は首を捻じ切られ、ある者は胴を切断され、ある者は踏み潰され、ある者は頭部を切り裂かれている。
少年は彼らを振り返ることすら出来ない。その気力さえ、彼にはもう残されていない。ぐらりと視界が澱む。
地に寝そべっていた剣が浮き上がり、翳された神の掌へするりと収まった。そしてそこが自らの居場所とでも言うように、剣は光沢を放つ。
「大義であった、人の子よ」
幾人もの声音が重なり合ったかのような不鮮明な言葉が脳に響いた。
少年は重い瞼を閉じる。
視界が静寂に包まれると同時、ぶつりと意識が途絶えた。
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