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一体、どこから声をかけてくれているのだろう。どうして自分は、そこへ行けないのだろう。そこに、行かせてはもらえないだろうか。こちらはちっとも、生きた心地がしないのだ。
「パパ、だめだよ!」
急に飛び込んだ娘の鋭い声に、ようやく外の音や光に気付いた。どうやら足取りが悪いまま、危うく道路に向かってしまうところだった。幸い車は止まっており、じきに青信号で忙しなく進み始める。
歩道に戻ると、傘は未だに不思議なグラデーションと微光の空間を広げていた。しかしもう、二人の声は聞こえてはこなかった。ぼんやりしていては、また娘に怒られる。柄を握る力が強まると、勤務中であるかのような足取りを取り戻した。
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