15人が本棚に入れています
本棚に追加
「その時思ったんだ」
何のために生きてきたんだ…?
何一つ、本当に何一つ、成し遂げられないまま…ただ、息をしているだけの、自分。
そして、静かに自分に絶望する。
「俺の名前、幸助っていうんだよ。名前負けも、いいとこ」
そこで、立ち上がれば、良かったのかもしれない。
だが、コウが選んだのは……選んではいけない、最悪の選択だった。
「俺…飛んだんだ。マンションの屋上から…」
「……!!」
コウ……幸助の目に、涙が浮かぶ。
「神様が、先に地上に降りろって言った意味、わかった。朋希に会って、一緒に過ごして…すげぇ、すげぇ楽しかった…。俺、生きているうちに、朋希に会いたかった…」
いや、あの時、親やチームメイトの手を、跳ね除けずに取っていたら、何か違っていたのかもしれない。外に出て、朋希にもしも出会えていたら、違っていたのかもしれない……。
そもそも、あの選択をしていなかったら…?
自分があの時、自ら手放してしまったものの大きさに今更気づいても…もう、時は戻らない…。
朋希も、同じ事を思っていた。コウ…幸助が、辛い時に側にいてやれていたら、どうだっただろうかと…それを伝えたかったが、変に声が上ずってしまいそうで、言葉にうまく出来ない…。
朋希は、コウにおにぎりを一つ、差し出した。
「ん」
コウは、鼻をすすりつつ受け取る。
二人は、おにぎりを食べ始めた。
雨は次から次へと降り注ぐ。
二人の、思いを、言葉を飲み込むように……。
最初のコメントを投稿しよう!