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1 変な奴
変な奴……。
芦原朋希がそいつを見た時の第一印象は、そんなものだった。
大学に行く時に通る川。
そこに架かっている橋にそいつはいた。
年は、おそらく朋希と同じくらいだろうか。
髪や目の色といった体の色素が全体的に薄い。
着ているのも、白いシャツに白いパンツ、白のスニーカーと白づくめ。
日の光を浴びたら、なんだか透けて見えてしまいそうな、そんなヤツ。
橋の欄干にたれ掛かり、パカッと口を開いた…悪くいえばマヌケ面で空を見上げている。
印象に残らない訳が無い。
朝、大学に行く時に見かけ、夕方に帰る時にも、何一つ…開いた口でさえもそのまま、そこにいた時は、思わず二度見してしまう。
あいつ、朝もいたよな…ちゃんと飯は食ったのかな…
声はかけず通り過ぎたが、そんな考えが頭をよぎる。
はっと我に帰って、ふるふると頭を振る。
いけね。また悪いクセが出るとこだった…。
朋希の悪いクセ…とは、お人好しの世話焼き性分だ。
もうこれは、家族全員そうなので遺伝のようなものだろう。
今は実家から離れているため、一人暮らしだが、実家は家族が拾ってきた動物だらけ。
親の帰りが遅い近所の子供にご飯を食べさせたり、自治会の雑用…などなど、頼まれれば断らないし、時には頼まれてもいないのに首を突っ込むお人好し一家で育った朋希も、しっかりその血を引いている。
しかし、最近は物騒な事件も多いし、気をつけるようにはしている…一応。
そう、している。一応。
……おいおい。もう三日目だぞ…?
それは、そいつを見かけるようになって3日目のことだった。
同じ場所でほとんど動かず、またぼんやりと空を見上げているそいつの横を通り過ぎようとした時。
ぐぅぅ…。
それはもう、盛大に、そいつの腹の音が鳴った。
ちょっと、待て?!
振り返ると、腹を抑え少し項垂れたそいつの姿は、耳と尻尾っをしょぼん…と下げた犬のよう…。
くっ……!もう無理だ!!
「…そこの人!」
そいつは、びくっ!と肩を揺らし、朋希を見る。
「へ……?オレ…?」
「他に誰がいるんだよ」
「……見えるんだ…?」
「え?なんだって?」
「あ、いや、なんでもない」
「…腹、減ってるんだろ?ついてこいよ」
「え?」
「メシ、食わせてやるから」
そう言って歩き出した朋希に、そいつは最初、戸惑った様子だったが、朋希の後ろをついてくる。
この出会いが、決して忘れることが出来ないものになると、この時の二人はまだ知る由もなかった…。
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